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  • TGR2018【新人賞】講評

    ■演劇家族スイートホーム「裸足でベーラン」

    まごうことなき「バッターボックス」は、見せたいものが100%ストレートに表現されていて、観る側も、作る側も逃げ道なしの真っ向勝負な気迫を感じました。会場に入った時に目を奪われる仕掛けが効果的。

    新人賞らしい勢いを感じる作品で、その勢いの中にも、“見せたいもの”の片鱗を感じるような、シーンの切り替え、ストーリー、小ネタたちがちりばめられており、見せたかったものが、よく伝わったと思います。ただ、作りの粗さが目立つところも多く、舞台美術も、脚本も、転換ひとつ取り上げても、もっと丁寧に作れる部分は多々あったのではないかと思いました。

    今回の新人賞受賞につながる大きな要素としては「今しかできない演劇」をやっている。という点に尽きるでしょう。「ドロップアウトしかけた大学生」の話を、今のスイートホームの皆さんが全力で描いていることに好感を持ちました。高校野球が題材でもダメだし、彼らが大学を卒業していてもダメだったのだと思います。身の丈を、飾らずに、思い切って描き、しっかりと演劇の練習を重ねた舞台に見えたからこそ新人賞です。

     

    ■妖怪大縁会『妖怪百歌物語 ~ニライカナイ編~』

    しっかりした作りの印象でした。音楽、芝居、脚本、すべての要素のクオリティは高かったと思いますが、残念ながら、曲と芝居の融合まではいたってなかったように思います。ひとつひとつは、とても楽しめるし、最後の舞いに至るまで、しっかりと世界観を貫いていた脚本の完成度の高さは、さすがというべきでした。

    それぞれのジャンルではベテランの実力を持つ方々が、音楽劇団としては新人ということで今回のエントリーだったということもあり、今後、大賞を狙っていって欲しいという期待が持てる劇団でした。

     

    ■旅木演劇工房「丘の上の桜の木に・・・」

    ストーリー、展開、結末までもベタではありますが、だからこそ、どの時代でも求められる作品だとも言えます。わかりやすい展開で、わかりやすいシチュエーションだからこそ、演者さんたちが確固たるイメージを持って舞台に立っているのが見て取れ、楽しんで演劇をしていると感じさせられました。

    一方で、暗転での転換が非常に多く、物語の流れや、人物の表情・心の動きなどがぶつ切りになってしまい、残念でした。また、客席から見えやすい舞台を工夫する、開演時間にスタートする等、観客を意識した公演スタイルを維持していただきたいです。

     

    作品とは直接関係ありませんが、主役の少年:颯太役の小島瑚乃美さんが素晴らしく、表現、表情、そして登場するだけで場の空気をしっかりと支える存在感、ぜひ俳優賞に推したいと審査員一同が全員一致しました。今年、新人賞からの俳優賞の選出枠はありませんでしたので、審査員賞として個人に賞を贈らせていただきました。彼女の今後にも期待したいと思います。

     

     

    今年は全体として低調との評価もありましたが、道外からの意欲的な参加もあり、来年より良い作品をお客様に届けられるように、劇団の皆さんとともに、劇場も共に励んでまいります。

    ありがとうございました。

     

    札幌劇場連絡会

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  • TGR2018【大賞】選評

    今回の大賞審査会で、大賞候補として推薦された作品は、

    空宙空地(名古屋)3都市ツアー「轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は」

    RED KING CRAB 2018「ガラスの動物園 The Glass Menagerie」

    劇団 風蝕異人街「身毒丸」

    マイペース「この夜が明けてくれるな」

    劇団パーソンズ×劇団fireworks提携公演「さよならノクチルカ」

    きっとろんどん「ひみこーる」

    プロトパスプア#4「春のめざめ」

    世界エイズデーシアター「TEA FOR TWO ~二人でお茶を~」

    劇団こふく劇場(宮崎)「ただいま」

    の9作品でした。

     

    これらの作品について協議を行ったところ、栄えある大賞には『世界エイズデーシアター「TEA FOR TWO ~二人でお茶を~」』が選ばれました。

    本作品は、上演意図において、エイズの蔓延防止、HIV感染者・エイズ患者への差別や偏見の解消を目的とした、他の作品とは異なるものでした。演劇という手法を活用しつつ、多くの人に伝わるエンターテイメント性にすぐれ、その目的を果たしていたと思われます。と同時に、脚本・演出・役者の3点において、もっともバランスよく優れ、完成度の高さが評価されました。

    二人芝居、場所はとあるホテルの一室という設定で、会話、舞台転換、衣装から時の経過が違和感なく表現され、二人の関係性の微妙な変化がよく表れていました。上演時間100分の中の穏やかな時間の経過が観客を引き込み、25年間の時の流れを感じることのできる作品でした。

     

    優秀賞の2作品(空宙空地「轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は」、劇団こふく劇場「ただいま」)は、ともに道外からの参加で、自分たちの活動拠点を遠く離れた札幌、北海道の初めて出会う観客に、自分たちの舞台を届けたいという強い意志が感じられました。偶然にも、両作品ともに私たちのすぐ隣、身近にあるかもしれない生活、人生をモチーフに、それぞれの座付き作家(空宙空地:関戸哲也氏、こふく劇場:永山智行氏)独自の視点で切り取られ、フォーカスされた作品で、観劇しながら、生きること、人生とは?に対して、想像もたのしく考え、想いを馳せることのできるものでした。

    ○空宙空地「轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は」

    母娘2世代の40~50年を70分の上演時間で描き、公演のキャッチフレーズ「ジェットコースターヒューマンコメディドラマ」の名のとおりの舞台でした。流されていく、ともすると置いて行かれそうになる主婦2代の女性の生活を中心に、各場面に「そういうことある、ある」の笑い(共感)がちりばめられ-特にパートシーンが印象的-、複数の可動式壁の自在な動きが、スピーディーなシーン転換を可能にし、功を奏していました。母の人生のリフレインかのように、しかもスピードアップして繰り返される娘の人生、ひな人形などの複線の回収も見事でした。

    ○劇団こふく劇場「ただいま」

    姉が行方不明になっていることのみが、事件といえば、事件である家族の日常生活を淡々と、しかしながら表現としては、繊細な工夫と大胆な試みが施された作品でした。会話部分が宮崎弁で、ト書き部分が標準語で語られた脚本は、理解もしやすく、かつ、宮崎弁(方言)の美しさ、なつかしさを際立たせるものでした。また、小さな太鼓、ウクレレ、鈴などの身近な楽器も取り混ぜ、入れ代わり立ち代わりの複数人で語られるト書き部分(ナレーション)の音の響き、劇中の歌が美しく、音として楽しいものでした。身体表現にも工夫が施され、ある種の型(移動時の中腰・すり足、会話時の正面静止状態)を用い、俳優の身体に縛りを入れることにより、猥雑な身体情報がそぎ落とされ、登場人物の中核にあるものが、浮き彫りになる効果が感じられました。

     

    審査員賞の『RED KING CRAB 2018「ガラスの動物園 The Glass Menagerie」』は、劇団として初めて既存の戯曲に挑戦し、名作と真摯に丁寧に向かい合い、自分たちの表現として成立させたことが、評価を受けました。俳優の好演とともに、舞台美術もよく研究されていました。

    また、受賞には至りませんでしたが、この作品だけでなく、『わんわんズのどん底』、『春のめざめ』など、若手劇団が名作に注目し成果を上げていることに高い評価が集まりました。

    札幌劇場連絡会

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