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TGR札幌劇場際 NEWS


  • TGRアカデミー2016 報告レポート

    2016年のTGRアカデミーにて選ばれた信山E紘希さんより報告レポートが届きました。
    TGR2017の授賞式でも簡単にご紹介しましたが、改めて行程およびレポート全文を掲載させていただきます。
    ※TGRアカデミーについてはこちらをご覧ください。

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    信山E紘希(のぶやま ひろき) 24歳

    【プロフィール】
    「座・れら」所属。
    TGRには「座・れら」の俳優として2011年より毎年参加している。
    2013年に上演した座・れら『べっかんこ鬼』では俳優だけでなく演出助手も務める。

    【行程】
    行程
    2017年
    1月20日:東京着
    1月21日:
    東京芸術劇場にてNODA・MAP第21回公演「足跡姫 ~時代錯誤冬幽霊 ときあやまってふゆのゆうれい~」観劇
    Bunkamuraシアターコクーンにてシアターコクーン・オンレパートリー2017「世界」観劇
    1月22日:寄席 観覧
    1月23日:札幌着

    【レポート】
    このレポートでは、私信山E紘希が今回TGRアカデミー奨学生として選出され、その奨学金を元に東京で観劇を行い、学んだことや豊富などを1000字から2000字程度で自由に書きます。行程や訪問先については一般公開されない報告書、または信山の公式YouTubeチャンネルであるChannel-Eをご覧ください。また、今回学んだことというのは前述の通り東京での観劇を行い、演劇についていくつか学んだことを指しますので、冬場の飛行機は欠航する可能性が夏場より格段に上がるからLCCの飛行機でもいくつか保険に入っておいた方がいいとか、もしくは欠航したときの返金対応などについて事前によく確認しておくべきなどということについては書きません。
    NODA・MAP第21回公演 新作『足跡姫』~時代錯誤冬幽霊~を観ました。このお芝居には古田新太という俳優が出ていました。古田新太という俳優を観客はよく知っています。古田新太が野田秀樹という俳優の指示に従わないシーンがあるのですが、そこで客席から笑いが起きました。つまり、古田新太が野田秀樹に従わないというのは、舞台の上で起こったハプニングではなく、ただ古田新太がふざけているだけだと観客はよく知っているのです。チケットをたくさん売るプロの俳優は、その俳優がどういう俳優なのかということを、まるで普通のことのように知られているのです。認知度が高いと、それに応じた演技・演出が可能になり、それが内輪受けとよばれなくなるということでしょう。ただ、札幌においてアマチュアで芝居をやるとすると観客の絶対数が多い中で上演しないといけない制約があるので、なかなか同じ感覚で演出するのは難しそうです。
    シアターコクーン「世界」というお芝居も観ました。お芝居の内容はともかくとして、正面席の半額の値段で観ることができる「コクーンシート」というところを予約していました。このコクーンシートは、劇場床面から考えるとおよそ三階にあたる高さで、しかもサイドから舞台を見下ろす形になるので、セットの奥が見える席です。舞台装置が回転して舞台転換するという演出があったのですが、その舞台装置が回転している裏で、スタッフの方が一生懸命舞台を回しているのが見えるので、たしかに高級寿司とか、その人のサイズをきいて発注するスニーカーとか、お揃いのスタッフジャンパーとかプレゼントして労をねぎらっておくのは得策だなと思いました。ただ見栄張りでやっているのではなく、士気を高めるということも、現場の長ならやるべきでしょう。
    普段は俳優をしている私ですが、今回の行程はのちに演出として創造する作品をあたまにおいた上での観劇であったため、演出であったり、全体の進行を考えながらの観劇となりました。演出をした作品信山プロデュース「桃の実」の宣伝で伺ったラジオ番組の司会者の方に、「濃いメンバーを集めましたね」といわれたため、その現場では上記古田新太を札幌で~と考えた時の論とは逆になりますが、我々のことを知っているという前提を元に作劇し、一定の評価を得たと自負しております。また稽古中にはみんなで串カツを食べたり、演出のおごりでピザを食べたりして、士気を最後まで保って活動できました。ピザの領収証はアカデミーでは落ちないようなので、本当に僕のおごりです。今回学んだことは、どんな芝居で使えるとかそういうことではなく普遍的な物なので、2018年4月20日からパトスで行われる信山プロデュースの第二弾「櫻井さん」でもyhs櫻井さんとかと仲良く頑張っていきたいと思います。

    信山E紘希
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    以上、TGRアカデミー2016の報告レポートでした。
    今回の観劇経験で吸収したことを生かし、札幌演劇界で大活躍してくれる日が楽しみですね。

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  • TGR札幌劇場祭2017 講評ラスト

    約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
    今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
    講評ラストは審査委員長の梅津 愛さんです

    【プロフィール】
    札幌生まれ、札幌育ち。
    札幌のカルチャーシーンに、広くアンテナを張りつつ暮らしている。
    舞台作品を観る側の人たちが、感想を発信するサイト〈札幌観劇人の語り場〉に書き手として参加しています。

    【講 評】
    TGR2017に関わったすべての皆様、お疲れさまでした。今年も一か月間、“観る側”として目一杯楽しませて頂きました。今年から審査方法が大幅に変わり、公開審査・講評が無くなった代わりに、審査委員長が大賞エントリー作品の講評を書く形となりました。審査員長一人の意見というよりも、他の審査員の感想や審査会での発言等も盛り込むように努めたつもりなので、今後の参考にしていただければ幸いです。文体がバラバラなのは、どうかご容赦下さい。なお、優秀賞・特別賞・オーディエンス賞は観劇順になります。

    【大賞】
    yhs『yhs結成20周年記念公演「白浪っ!」』
    納得の大賞受賞。審査会でもお伝えしましたが、観劇した審査員全員が支持しました。(こんなにあっさり大賞が決定していいものかと、逆に不安になるほどでした…)歌舞伎をベースにした作品だけにエンターテイメント性が高く、衣装も華やか、役者も多彩!と、楽しい要素がてんこ盛りな作品でした。橋・段差・舞台後方の斜めに切れた部分等を上手に利用し、動きのある、目を引き付けられる舞台だったと思います。歌舞伎やyhsを知らない人でも、充分に楽しめる作品。今後再演を重ねて、札幌の観客に愛される作品の一つになることを願います。

    【優秀賞】
    トランク機械シアター『ねじまきロボットα ~ともだちのこえ~』
    毎年、シリーズもので質の高い、安定感のある舞台を見せてくれるトランク機械シアター。年々、人形の扱いが上手になっているといった声が審査会ではありました。内容も、言論統制や異質なものを排除するといった不寛容な世相を反映した重層的な話で、大人にも見応えのあるものでした。そして相変わらず、観客へのホスピタリティの高さが凄い!絵描き歌や観劇中のお約束の歌など、開演前の待ち時間でも退屈しないよう、楽しませようという姿勢が◎。しかもその内容がEテレ並みのクオリティで、大人も子供も存分に楽しんでいました。

    【優秀賞】
    座・れら『第1407回札幌市民劇場 座・れら第13回公演 「アンネの日記」』
    きっちりと作られた正統派な作品。私は原作を読んだことがなかったので、騒々しいアンネに最初は面喰いましたが、ただでさえセンシティブな10代の時期を家族以外の他人と一緒に閉じ込められた空間で過ごす。そのやるせなさ・圧迫感、ひりひりとした空気を痛々しく思いながら観ていました。観客側は、この家族の行き着く先を知っているからこそ、必死に希望を見出そうとする姿勢をいじましくも、やるせなくも思う。「普通の15歳のアンネに思いを馳せた」と話した審査員もいたように、戦争という個人ではどうすることも出来ないことがもたらす悲劇を〈戦争に振り回された一人の少女の話〉として描く良作でした。
    おきゃんなアンネを演じていた早弓結菜さんは勿論ですが、同じ隠れ家に住むペーターを誠実に演じていた信山E紘希さんも好演だったと思います。

    【特別賞】
    MAM『月ノツカイ』
    炭鉱(ヤマ)を舞台にした家族の話。私はフィクションと思って観ていたのですが、モデルとなったであろう北炭夕張新炭鉱のガス突出事故をリアルタイムで知る審査員の方にとっては、当時を思い起させる作品でもあったようです。作中の時間軸が過去と現在をいったりきたりする為、観ながら多少戸惑う点もありましたが、二つの時代を繋ぐ留守番電話のエピソードがとても良かったです。
    健司役の遠藤洋平さんを俳優賞に推す声もありましたが、個人的には会社側の人間であることに葛藤しながらも抗員達に寄り添う横塚役の本間健太さんが、情感細やかな演技で印象に残っています。

    【特別賞】
    ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』
    役者が、音響・照明も担うという演出手法が斬新。作りこまれた完璧さ・精巧性はないけれど、上演中にドローンが飛ばなかったり、カセットが上手く動かなかったりといった(良い意味での)“粗さ”を楽しむ作品なのかなと思いました。「固定概念を壊す演劇」と評した審査員もいました。観るたびに色々な表情をみせてくれそうな作品なので、是非また札幌で再演して欲しいです。

    【特別賞】
    proto Paspoor -プロト・パスプア-『ある映画の話』
    〈実験的な作品・試行錯誤・研ぎ澄まされた作品〉等の言葉が審査会では聞かれました。真っ黒な舞台セット、観客を誘導するトライアングルの音、決まった料理の順番に逆らうことが出来ないコース料理の様に粛々と進む話を“観せられている”印象を受けました。トライアングルのルール、私は面白かったのですが、上から目線の口調に不快感を示す審査員もいました。口調はともかく、確かに不安になるほど長く待たされることもあり、もう少しスマートに誘導してくれた方が、より演出効果が引き立ったかなという気はしました。
    役者の中では〈僕の兄〉役の中村雷太さんが鬼気迫る演技で、一部審査員の話題にあがっていました。

    【審査員賞】
    NIN企画『「けんず」きみが傍にいた時代』(の中より『靴』)
    オムニバス3本立て。なかでも受賞作である「靴」は普遍的な話で、いつの時代・どの年代でも楽しめる作品だと思いました。戦争に翻弄された家族を靴の動きだけで表現していて、4足の靴(を操る役者)しか舞台上にはなかったはずなのに、夜道を二人で歩いた様子や出征する夫を駅で見送ったときなどが、まるで映画の一場面のように思い起こされます。「無言劇というカテゴリーの中で秀逸」と評する審査員もおり、ぜひ沢山の人に見てほしい作品です。

    【オーディエンス賞】
    札幌オーギリング『休止興行「ラストアンサー」』
    今回唯一の、〈演劇〉という枠にはまらない作品。観る前から、毎回内容が違う〈大喜利〉を他の舞台と同じ俎上で評価するのは辛そう…と、若干腰が引けていたのですが、観客にとても愛されている興業だという事は初めて見た私にもよく伝わりました。対戦者の回答を受けての機転の利いた答え、プロレスを模したマイクパフォーマンスや実況・解説の阿吽の呼吸。大勢の参加者(全員が舞台に立つと、空気が薄く感じたほど…)の、面白い舞台を作ろうという総意が感じられる作品でした。

    【オーディエンス賞】
    ELEVEN NINES presents ミャゴラ 『やんなるくらい自己嫌悪』
    「死にゆくものたちの聖地」とよばれる森に集う人たちの話。と、あらすじだけ書くと陰惨な話のようにみえますが、独特な世界観を持ったコメディとして楽しませてくれました。イレブンナインの中でも若手の役者達がメインとなり、一生懸命に頑張っている感じが伝わってきて、その精一杯さが作品のトーン(生を肯定する前向きな姿勢)と合っていたように感じます。役者としてはヴィンセント藤田さんを推す審査員がいた一方で、萬屋を演じた坂口紅羽さんが好演だったように思います。

    以下、観劇順です。

    公益財団法人北海道演劇財団『シアターZOO企画 劇のたまご
    「ぐりぐりグリム第一章:おかしな森のヘンゼルとグレーテル」』
    歌あり踊りあり、お菓子の家や池などの舞台美術も可愛らしく、目に楽しい舞台だったと思います。(ただ「い」とか「ま」とか平仮名一文字の看板を、最後に並べると意味のある言葉が…というのを期待していたので何もなくてガッカリ。)内容としてはヘンゼルとグレーテルにカエルの王様を混ぜたものでしたが、最後の鉄のハインリヒの場面は、ちょっと蛇足のように見えました。

    うわの空・藤志郎一座『面白半分』
    話自体は一昨年のTGRエントリー作品と同じため、結末はわかって観ていました。それでもテンポよくやり取りされる台詞や、くどい位挟み込まれる小ネタによって飽きずに観ることが出来ました。この劇団は台本がない「口立て」で作品を作っているそうなので、この小ネタはほぼアドリブなのかな?多分。そのことに違和感なくスムーズに進む話に、役者の力量を感じました。

    劇団words of hearts『アドルフの主治医』
    去年に引き続き、史実から題材をとったオリジナル脚本で上演されている点は◎。ただ、医者なのに病気の治癒では無く、ヒトラーのクローンを作るという発想が私には少々突飛に感じました。〈不妊に悩む妻/倫理に反した命を生み出そうとする夫〉という対比の形だとは思うのですが、観ながら主人公の心情を掴みきれず、少しリアリティに欠ける気がしました。審査会では、大道具・衣装・小道具をちゃんと揃えた舞台美術を評価する声がありました。

    劇団ルート1『ずっとあなたを見守って…』
    役者の動きや台詞の言い方がやや単調な点や、突然、一瞬だけ音量が上がる音楽などは観ていて辛いものがありました。内容も、終盤で(伏線もなく)一気に説明されたので、駆け足な感じがして少し残念でした。ただ、この劇団の物語性のある優しい話は評価できる点だと思うので、来年以降、より一層頑張ってほしいです。

    マイペース『ばかもののすべて』
    初めて観る劇団でしたが、思っていたよりもずっと面白かったです。馬鹿馬鹿しい明るさのある作品。
    夢追い人とか引きこもりとか、色々ダメダメなのに楽観的な男達に対して、「現実見ろよー!戦わなくていいから、ちゃんと見ろ!!」という妹の言葉が重い。隠し子の彼女といい母親といい、芯のところでしっかりしているのは女性だな、と思いながら観ていました。全編通して笑える話でしたが、あえて難を言えば上手にソツなくまとまりすぎているというか…。楽しいだけで、特別心に引っかかるものがなかった点はちょっと残念。

    MAM『父と暮せば』
    名作脚本+同じキャストで何度も上演されている作品なので、今回が初演の作品等と同じように評価することは難しい、という意見も審査会ではありました。確かにちょっとズルいなと思ってしまうほど、安定感のある舞台でした。俳優賞は、札幌キャストの娘役・髙橋海妃さんが受賞されましたが、同じく娘役・東京キャストの松村沙瑛子さんを推す声も審査会ではありました。札幌キャスト・東京キャスト、どちらも観たいと思わせる上質なお芝居だったと思います。

    劇団・木製ボイジャー14号『ホテル』
    昨年度のTGR新人賞を受賞した団体。初めて観ましたが、熱気は伝わりました。極彩色の舞台、息を乱さずに動き続ける役者達の疾走感は凄かったし、自分たちのやりたいことをギューギューに詰め込んだ作品にみえました。内容はぶっ飛んだ話ではありましたが、設定からも美術からも多分に寓話的な意味合いを含むものにみえ、想像の余地があるものでした。(観ている最中は、そのハチャメチャな話についていくのがやっとだったので、今思い返してみると…ですが)一方で、演じている人が一番楽しく、観ている人を少し置き去りにしているような印象を受けました。

    劇団コヨーテ『路上ヨリ愛ヲ込メテ』
    〈独自の世界観に裏打ちされた作品〉という事は伝わりました。でも正直、私にはよく分からなかったです。万人受けするエンターテイメント性と対極にある作品、自己表現の作品だと思いました。それが肌に合う人は好きだろうけど(現に観た回は満席・観客は満足げだったし、コヨーテを推す審査員というのが代々いるので)私は咀嚼できませんでした。勿論〈みんな楽しく・わかり易く〉が演劇の評価する点ではないので、こういった作品が札幌で上演されることはとっても意義あることだと思います。でも呆然とするくらい分からなかったなぁ…。
    分からないなりに、脇田唯さんの静謐な感じの演技が印象に残りました。

    札幌ハムプロジェクト『象に釘』
    最初、二人の関係性や、この場所にいる背景などが掴めず戸惑いましたが、そういう作品(不条理劇)だと思って観ると、すんなりとその不思議な空気を楽しむことが出来ました。私が観た回は割と訥々としたせりふ回しでしたが、もっと畳み掛けるような丁丁発止とした台詞のやり取りだと、また違って見える二人(毎回キャストが違ったので、観た回によって全然印象の違うお芝居だと思いますが…)になるだろうな、と思いながら観ていました。

    札幌ハムプロジェクト『Dr.サタン、まちがってサンタをつくる』
    『像に釘』が変化球だとしたら、こちらは直球の二人芝居。少女と老人の、ああでもないこうでもないといった、やり取りがテンポよく進み、安心して観ていられました。どこまでが台詞で、どこからがアドリブ?と思う場面が何度かありましたが、それをスマートに劇の中に落とし込んでいました。舞台上で物を作って食べる、ということに否定的な審査員もいましたが、私は普段の劇場では意識することの無い嗅覚を刺激されて、なかなか面白かったです。でも悪魔ご飯を食べたいかと言われたら、丁重にお断りしますが…。

    弦巻楽団『#28.5「リチャード三世」』
    2倍速シェイクスピア。台詞のスピードが早過ぎて、話は面白いのになかなか頭に入ってきませんでした。ただ、演技講座受講生の発表の場であることを踏まえると、あの膨大な台詞を間違えることなく、途切れることなくスラスラと発することが出来るのは、練習の賜物だなと感心しました。また、シェイクスピアという古典作品に挑戦する姿勢には好感が持てるといった意見が、審査会ではありました。

    以上、大賞エントリー20作品。皆様、本当にお疲れさまでした。
    3年間審査員を経験させて頂き、大変だったけど本当に楽しかったです。こんなに密度の濃い観劇の機会は多分もう二度とないと思うので(笑)貴重な経験をさせて頂いたこと、感謝しております。来年以降は、札幌演劇にちょっと詳しい(?)一観客としてTGRを、演劇を観ることを楽しみたいと思います。
    3年間、本当にどうもありがとうございました。

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  • TGR札幌劇場祭2017 講評⑤

    約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
    今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
    講評5回目は新人賞審査員の桑田 信治さんです

    【プロフィール】
    初めて札幌演劇に触れたのは10数年前。その後、雑誌編集の仕事を通じて札幌の若手演劇人と交流を持つようになり、毎週末の小劇場通いが始まる。ジャンルや規模の大小を問わず、年間観劇本数は100本前後。仕事柄、作品の中身だけではなく情宣のデザインやライティング(文章)などにも拘りはあるが、客席では単純に泣いたり笑ったり。演劇は客席の自分と舞台との「個人的な出逢い」であり、いつまでも「ただの観客のひとり」として札幌演劇を観ていたいと思っています。

    【講 評】
    まずは参加されたすべての団体の皆さんに感謝を。今年も素敵な作品をありがとうございました。
    TGR新人賞の審査委員長を拝命して3年目になりますが、今年はまた、それぞれにベクトルのまったく違う5作品が並んだなあというのが感想です。どの作品を推しても、その理由には共感できるものはあるのですが、他を圧するまでの決め手には欠け、審査会ではかなり話し合うこととなりました。

    TGR新人賞には原則として「該当者なし」はありません。賞は審査委員とではなく、あくまでもカンパニー同士で競っているからです。受賞した劇団plus+さんには、これを励みにさらに上を目指してもらいたいと思います。
    以前から何度も述べていますが、TGRに参加するカンパニーさんは皆それぞれのスタンスを持っており、それはそれでいいのだと思っています。
    ただし賞に、しかも限られた期間しかチャレンジできない新人賞にエントリーするなら、野心をもってTGRに照準を合わせてきて欲しいなあというのが僕の本音です。特に、卒業公演や合同祭といった前提条件に縛られないカンパニーさんは、1年に一度しかない機会に自分たちをどう「演出」するかを、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

    TGRには今年から、かねてから僕も待望していた「俳優賞」が設けられました。この賞は、新人賞・大賞どちらのエントリー作品からも垣根なく選ばれるものです。今後はこちらとのW受賞にも期待しています。

    ■演劇ユニットサクラナイフ『消火器アリスと狂姫鏖祭(きょうきおうさい)-ALICE in Bloody hell FEST★-』
    作家の頭の中にある世界観を、会場のエントランスも含めて表現し、観客を「物語」へ誘(いざな)おうという意図はとても伝わってきました。入り口をくぐった観客は不思議な世界に迷い込み、終演後にまた日常に戻っていく──パトスは、今回の作品にとてもマッチした会場でもありました。
    エントリーシートには「中だるみしない疾走感のある作風」とありましたが、序盤から1時間近くは物語がほとんど動かず、延々と世界観の語りに費やしたのはもったいないというか、見切りの付け方を考えた方がいいかなと感じました。8人の「自分」を登場させながらその出自を明らかにするのが遅かったし駆け足すぎた。もう少し展開を有効に使い、それぞれの「アリス」に見せ場を作ることができたのではないかと。
    作家独自の作風、というのは尊重したいですが、舞台演劇として観客がどう受け取るか。世界観を(チェシャ猫の)独り語りで押し続ければ観客が受け止めてくれるというわけではない。「ライトノベル寄りの脚本」だと自認しているとしても、ライトノベルにあっても世界観は作品として総合的に伝えていくものだと思います。作品の客観的なバランスをとるために、観客の目に物語がどう見えるのかを今一度意識してみるのもよいかも知れません。

    個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
    世界観★★☆ 作者の意図する世界観を基軸に物語を立ち上げようという意図はとても伝わってきた。
    展開★☆ 序盤での停滞が残念。8人のアリスはもっと使えたはず。
    エンターテインメント性★☆ エンターテインメントとは何なのか。演出家として、上演台本をもっと客観視してほしい。役者はまだまだ応えてくれるはず。

    ■さっぽろ学生演劇祭『ブルー!ロマンス・ブルー!』
    「ギリシア神話を持ってくるという発想がよかった」という声が審査委員から上がっていました。合同祭(さっぽろ学生演劇祭)には新人賞エントリー以前に「学生演劇を色々な人に知ってもらう」「皆で結束して舞台を創っていく」等の目的があるのだと思いますが、10年という節目を越えた今年の合同祭は、役者・スタッフともに、総合的に舞台を作り上げていくという姿勢、きちんと観客を意識した作品づくりが今まで以上に感じられました。
    大所帯となる合同祭では、多くのキャストをどのように動かすのかが演出(と脚本)の悩みどころだと思います。その意味では、ギリシアの神々というのは素敵なアイディアだったかな。ギリシア神に和歌を詠ませてしまうというミスマッチの妙も、大人のカタい頭には想いが及ばないところですね。
    ただし、何組かの恋愛模様が交差する中で、観客(や、もちろん作り手の)目線では軸となるはずの、等身大の人間の男女二人の結末が消化不良になってしまったのが残念だったかな。あの男の子はどうして神でもあったのか、イマイチ分かりにくかった。
    前述したような理由で群像劇になりがちな合同祭ですが、過去には一人二人を主役にした作品もあったはず。群像劇がNGという訳では全然ないのですが、そこは脚本のウデの見せ所と考えて欲しいですね。
    今年は1・2年生が多い舞台だったそうですが、合同祭を経ての、それぞれの今後の発展にも期待しています。

    個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
    演出★★ 男女の絡みの距離が近くエモーショナル。女性の演出だからこそ出来たのかな。
    興行性★★☆ 視覚的なパンフレットの工夫、舞台美術、スタッフも含めた合同祭の総合力を感じた。
    物語★☆ 結局、人間の「彼」と神との関連がいまひとつよく分からなかった。結構大事な部分だと思うんですが。

    ■きっとろんどん『ミーアキャットピープル』
    旗揚げから1年半足らず。本公演もまだ3回目ながら集客力の高い評判のカンパニー。敢えて言いますが、個人的にも新人賞候補としてかなり期待を持っていました。
    レギュラーに近い客演陣も含め、あて書きに応える役者力と、それを引き出す作家の力。掛け合いではなく個々のセリフのニュアンスコントロールだけで笑わされてしまう展開にも、役者と作家、そして演出の力量を感じます。問題は、今作の題材でした。
    昨年の講評で僕は「もう、好きなように作って、見せてくれればいいというような感覚になってきている」と書きましたが、ここでは敢えて反対のことを言います。きっとろんどんなら新人賞を「狙って穫る」力があったのではないか。そのためには、特定の観客(今回のモチーフとなった遊び満載のギャング映画を知っている観客)以外には通じにくい今作は、TGRじゃなくて次の公演じゃダメだったのかなあ。
    これは「審査員好みの作品でエントリーした方がいいよ」という意味ではありません。演劇には賛否両論がつきもので、万人が褒める作品なんて気持ち悪い、というのが僕の持論です。しかし今回は賛否以前に、前提から疎外されてしまった観客が少なからずいたようです。終演後の客席の戸惑いからもそれは感じられました。
    作・演出の井上さんは、「あの映画」の特異な魅力を今作で再現したかったのだと思いますが、これはきっとろんどんにしてもハードルの高いチャレンジだったと思います。多くのシーンや構成、場面の見せ方へのこだわりなど、映画へのリスペクトがそこここに感じられ、役者力の高さとともにひと幕ひと幕の完成度は高かったのですが、作品として観客を巻き込むに至っていたかどうか。
    拳銃やマシンガンであっけなく登場人物が死んでいく。アメリカのギャング映画ならアリかと思いますが、日本を舞台にすると結構殺伐としてしまいましたね。審査委員からは「まんま外国を舞台にすればよかったのでないか」「映画の展開をもっとダウンサイジングするという方法もあったのではないか」という意見もありました。
    TGRとは別個の話ですが、前回公演ではSF映画やアニメをモチーフにしながらもオリジナル作品としてとても見応えのある昇華をしたきっとろんどんさんですから。来年のエントリーに、また期待しています。

    個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
    演出★★☆ 映画へのリスペクト。シーンの再現力。演技演出
    キャスト★★★ 見応えのある役者力
    脚本★★ 映画をまんま飲み込むのは難しい
    ※おまけ…泉さんの拳銃の構え方と反動の逃がし方★★★

    ■総合学園ヒューマンアカデミー札幌校パフォーミングアーツカレッッジ『ロミオとジュリエット』
    昨年に引き続きいてのシェイクスピア作品ですが、「卒業公演」として、ふだん演劇になじみが少ない客層にも親しみやすい演目選びがまず成功。きちんと役を咀嚼して舞台に立っている役者が多く、主役陣以外にも光る演技が少なからずありました。また、歌に対する審査委員の評価も高く、新人賞に挙げる声もありました。
    僕の観た千秋楽のロミオAがとても素晴らしかったのですが、初日はアガリまくっていたと(失礼)あとで他の審査委員に聞きました。審査委員によって褒めるキャストが違ったのは、Wキャストだからというだけでなく、短い公演期間内に舞台の上で進化していったゆえだと思います。卒公であるからには卒業生全員が舞台に立たなければならない。先生方の苦労も偲ばれますが、今年は堂々の新人賞エントリー作品でした。
    悲劇的な幕切れのあとのカーテンコール。華やかな楽しいダンスは、「お芝居」のフィナーレかそれとももうひとつのハッピーエンドか。シェイクスピアの時代の観客の目にはどう映ったのだろうか、とその時代に想いを馳せさせてもらえるほどに、「身内の公演」としてではなく、作品として楽しめる域にあったと思います。

    個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
    キャスト★★☆ 配役に応える力と意欲。
    演目・演出★★★ 卒業公演としても成功だし、一般のお客さんにももっと観てもらいたかった。
    意義★★★ 若い世代が古典に触れる機会は貴重。そしてそれを成果に結びつけた努力も評価。

    ■劇団plus+『姉妹(ワタシタチ)、一肌脱ぎますッ!』
    3年連続のエントリー。この作品だけで評価するのはもちろんですが、一昨年、昨年と観てきた僕としては、作劇も所属役者の力も確実に伸びているという手応えを感じました。
    始まった途端に物語の結末もそして更にラストのオチも見えてしまったのですが(笑、主役姉妹にからむ2人の男性(客演)に「?」を増やして観客の興味を先に向ける工夫も感じられました。
    ただし個人的にはエントリーシートの「初コメディ脚本」という言葉が気になりました。何をもって「コメディ」と定義しているのかな。「お笑い」くらいの意味なのだろうか、と。
    例えば部屋内の会話が家の外の警官に筒抜けだったり、家に勝手に他人が上がり込んでくるユルさをもってコメディと定義するのものではないと思います。シリアスな展開の部分との「世界観のお約束」のギャップに個人的にはかなり違和感を感じました。
    そのお笑いの部分にはもっとテンポが欲しかった。これは昨年も言及した部分ですが、演出をもっと重視してほしいと思います。
    今後もこのカンパニーを続けていくなら、劇団plus+さんはまずもっと動員に力を入れてほしい。今回は人気劇団の新作公演と期間が重なったせいもあったとは思いますが。賞賛も批判も、まずはたくさんの観客に観てもらうことから始まるのですから。

    個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
    キャスト★★☆ 姉妹二人が幕開けからのびのびと光る。市場さん(客演)の支える笑いは貴重。
    物語性★★ 芝居としての完成度は公演を重ねるごとに増している。脚本の意気込みも感じられた。
    客演★★ 好き嫌いは分かれるだろうが梶原さんはかなりのインパクト。市場さん霜田さんのキャラかぶりは気になった。

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  • TGR札幌劇場祭2017 講評④

    約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
    今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
    講評4回目は審査員の山口 祐佳さんです

    【プロフィール】
    北海道教育大学岩見沢校 芸術文化コース アートマネージメント音楽研究室 卒業

    大学1年生の夏から演劇を観始める。とにかく観るのが好き。
    大学在学時は、北海道教育大学岩見沢校の演劇研究会劇団ぱるふぇで制作を務める。
    ゼミでの実習などを通し、様々な制作現場に携わる。

    【講 評】
    TGR2017に参加された劇団の皆様、関係者の皆様おつかれさまでした。
    今年から審査員を務めさせていただくこととなり、自分はどういった基準で審査を行うかということをまず考えました。悩んだ結果、今年の私の審査基準としては、“もう一度友人を連れて再観したいと思う作品かどうか”という観点にしました。シンプルな基準ではありますが、再観したいと思う作品と一言で言っても、面白い作品、心に突き刺さるものがある作品、大切な誰かにも観てほしいと思う作品など色々な要素が詰まっていると思うのです。

    1か月で約20本観劇するのは初めての経験でしたので、気合いを入れて臨みましたが、楽しみながら劇場をまわることができました。ありがとうございました。

    今年から優秀賞や俳優賞が新設されたことにより、より多くの劇団や俳優にスポットを当てられるようになったことはとても良かったと思います。

    それでは事前審査会で私が推した5作品について観劇順に述べたいと思います。

    トランク機械シアター 「ねじまきロボットα ~ともだちのこえ~」
    大人も子どもも楽しめる作品の真骨頂だと感じました。前説からホスピタリティが素晴らしく、心がほぐれた状態でスムーズにお芝居に入っていくことができたのが良かったです。トランク機械シアターの作品は初観劇でしたが、もっとはやくから観ておけばよかったなと思いました。ただ悪者を倒すだけではなく、アルファーが「ともだちになれなかった…」とつぶやくところが、ハッとさせられました。悪者は悪者と排除せず、いつか理解し合えるはずと信じるアルファーの姿勢に感銘を受けました。いつか自分に子どもができたら一緒に観たいと思える作品です。

    MAM (Masuzawa Artist’s Meeting) 「月ノツカイ」
    主人公である遠藤洋平さんの好演が光っていました。遠藤さんの新たな一面を観た気がしました。この作品は、北海道の歴史を語る上で欠かせない炭鉱操業時が舞台で、その時代を知らない20代の私でもまるでその時代にいるかのように体感できました。炭鉱事故の注水のシーンでは、俳優さんたちの熱演に思わず息を飲みました。観劇した後、数日後に千穐楽も再観しました。

    ニッポンの河川 「大地をつかむ両足と物語」
    俳優が照明と音響を兼ねるという、演劇というものの常識や固定概念を覆すような素晴らしい作品でした。また、物語自体も面白く惹きつけられるもので、時間軸がめまぐるしく切り替わり、リフレインしていく様も見事でした。東京公演では野外で行ったということで、ぜひ北海道でも劇場以外の場所で他の作品も拝見してみたいと思いました。

    劇団コヨーテ 「路上ヨリ愛ヲ込メテ」
    心に突き刺さるものがある作品でした。バラバラのストーリーがどこに行きつくのだろうと食いついて観ていました。登場人物たちが不器用ながらもそれぞれ一生懸命生きている様が愛おしかったです。ギラギラしたものを感じました。観劇後、自分は彼らのように毎日を懸命に生きているのだろうかと考えさせられました。

    yhs 「白浪っ!」
    これぞエンターテイメントと思いました。終始わくわくしながら観劇していました。豪華俳優陣に加え、脚本の面白さ、舞台美術等も含め全てが素晴らしかったです。また、オリジナルの主題歌もとてもかっこよく、数日間頭から離れませんでした。演劇を観るのが初めてという人でも楽しめる作品だと思いますので、再演される際はぜひ観劇が初めてという友人と一緒に観に行きたいと思います。

    2013年から演劇を観るようになった私は、1ヶ月間で様々な作品を観ることができるTGRを毎年楽しみにしていました。また、2015年には当時所属していた大学の劇団で新人賞にエントリーし、TGRに参加しました。審査員の役目を拝命したことは大変恐縮ではありましたが、観客、参加劇団の一員とどちらの立場も経験してきたことを、審査員を務めるにあたり活かすことができるはずと信じ1ヶ月間劇場をまわりました。大変密度の濃い日々を過ごすことができました。ありがとうございました。来年も様々な作品に出逢えることを楽しみにしております。

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  • TGR札幌劇場祭2017 講評③

    約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
    今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
    講評3回目は審査員の四宮 康雅さんです

    【プロフィール】
    HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。91年に日本テレビから転職。ニュース編集長、大型ドキュメンタリーの制作など一貫して現場に携わり、99年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多い。ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞では、国際テレビ芸術アカデミーから招聘を受けドラマ部門(TV Movie/Mini Series部門)の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛する走るハルキスト。イタリア語個人レッスン中。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫)。一般社団法人 放送人の会会員。

    【TGR札幌劇場祭2017 講評にかえて】
    今年のTGR札幌劇場祭、表現者の皆さん、舞台制作に関わったスタッフの皆さん、各劇場の皆さん、そしてロングランでの劇場祭運営にあたった劇場連絡会の皆さん、本当にお疲れさまでした。今年は去年までの授賞式の在り方を踏まえて、劇場連絡会と大賞審査員が対話を重ねて、新しい審査会の在り方、また授賞式の在り方を模索し、結果、大きく変えることになりました。演劇人の皆さんにはそれぞれの感想があると思います。後日、反省会も開催されますので、来年以降もより良いTGRの方向性を見出して行ければと思います。大賞エントリー作全作品の講評は、梅津委員長が総括されますので、個人的に感じたことを書かせて頂きます。個人的都合でエントリー作のうち、札幌オーギリング『休止興行「ラストアンサー」』、札幌ハムプロジェクト『ハム・コレ2017二本立て』のうち『象と釘』を観ることができませんでした。また、事前審査会に選評と各賞の推薦は書かせて頂きましたが、帰省していたため参加することができませんでした。予めお断りしておきます。
    今年のTGRでは、個人的なことかもしれませんが、劇の作品力や作家性のオリジナリティ、独創性、革新性に加えて、札幌の演劇人、あるいは劇場人たちを応援したいという視点で観ようと努力しました。昨年よりレベルが上がってロングランの観劇も乗り越えられました。エントリーされている作品のクオリティは時としてため息をつきたくなるものもありました。しかし、映像に携わってきたものとして、舞台表現はもっとも自由度が高いと思っていますので、多様性のある作品を推したいと思いました。「もう一観たい!」。平田オリザさんの言葉だそうですが、最後はその視点で選ばせて頂きました。僕は舞台表現、特に演劇には特別なリスペクトがあります。舞台人やそれを支えている制作や縁の下の力持ちの皆さん、そして社会財でもある劇場の運営に日々努力されている劇場人の皆さんを少しでも、審査員という立場で応援したい。そう思っています。多様な視点で選ぶことができ、賞の重みはもちろんのことですが、表現者たちの励みになるような、新しいTGR初年に相応しい結果になっていれば、2年目の大賞審査員として望外の喜びです。

    【大賞・俳優賞受賞】
    yhs『白浪っ!』
    冒頭から「きたーっ」と身を乗り出しました。お話をぎゅっと訳するとミッションインポッシブルを歌舞伎でやりたかったのね、と最後の見得を切るところまでイマジナリーラインでぼんやりと見えたのですが、観客を楽しませてくれる奇想天外な発想に加えて、ビットコインやLINEという現代性も自然に劇作に組み込み、達者な俳優たちが見事に「かぶいて」魅せてくれました。劇団創立20周年のおめでたい節目で大賞を狙うに相応しい実にあっぱれな作品でした。作品力はもちろんですが、シンプルながら舞台美術の造作と見立てが本当に素晴しく、人物もよく彫られていていましたし、劇全体のタブローも美しくアクションにマッチングしていました。オリジナルの音楽も格好良かったですね。作・演出の南参は、かなり悩んだと思うのですが、自分の持ち札をすべてさらしてストレート勝負に出たことが良かったと思います。物語を紡ぐ劇作家としての豊かな想像力とそれを舞台に乗せられる極めて高い演出力を評価したいと思います。初めての俳優賞を受賞したyhsのプレーヤー、櫻井保一は、振れ幅の大きな持ち味と、役者としての引き出しの多さで以前から注目していたのですが、持てる身体性をいかんなく発揮して、主役の重責を見事に果たしました。yhsとして世代交代という意味合いも感じられ、櫻井の『白浪っ!』だったと思います。

    【優秀賞】
    トランク機械シアター『ねじまきロボットα~ともだちのこえ~』
    札幌の子ども文化の豊かさを支えるインフラである「こぐま座」をホームとするトランク機械シアターの子ども目線ながら、大人の心も動かす確かな脚本と劇世界は今年も魅力的でした。人形劇というジャンルを超える表現の豊かさ、子どもたちにも大人にも深く感じさせる、善と悪の単純な対立ではない、悪者をやっつけてハッピーエンディングにしない作劇の奥深さは、今日的な社会メッセージを持っていたと思います。作・演出を手掛ける立川佳吾の作家として感受性の豊かさと本づくりの丁寧さは特筆すべきものがあると思います。審査員賞に、やまびこ座で上演されたNIN企画『「けんず」きみが傍にいた時代』の中から、冒頭で上演された「靴」が選ばれました。これもシンプルな素材と演出で家族の成長や戦争の惨禍まで想像させる小作品でした。日本に誇る札幌市の2大児童劇場から受賞作が出たことはとても意義深いものがあると思います。

    【優秀賞】
    座・れら『アンネの日記』
    誰でもそのタイトルは知っていて、なんとなくこういう物語だよねとは思っているけれど、実際は読んだことは少ないのではないでしょうか。話はそれますが、30年近く前、いわゆるベルリンの壁が壊れた後に、取材でポーランドへ行った折り、かつてのアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所(博物館)を訪れたことがあります。人類の本質は暴力性だということを思い知って背筋が凍り思わず泣いてしまったことを観劇後に思い出しました。アンネの日記は、学校の指定図書で読んだことがあるはずですが、思い出せません。舞台の外ではユダヤ人だけではなく、障がい者やLGBTに至るまで狂った民族浄化が起こっていたはずで、そんな絶望の瀬戸際の隠れ家生活の中にあっても無邪気に恋にときめくアンネやアンネを取り巻く人物たちがとても丁寧に演出され、小休憩を挟んで長丁場なのですが、最後まで連れて行ってくれました。特に第一幕最後の、ハヌカ祭のシーンのディテールと第二幕の物語の暗転の落差は一気に魅せました。深く傷ついたテロルと不寛容、分断の今日。『アンネの日記』が、ある種のもの言わぬプロテストとして上演されたことにも意味があったと思いますし、劇団の、そして演出の鈴木喜三夫の真摯な向き合いも評価したいと思います。個人的には大きな芝居は好きではないのですが、感銘を受けました。アンネ役の早弓結菜のフレッシュな素材感、ペーター役の信山E紘希の人物の立ち方が印象的でした。アンネの日記の外側に現在の劇構造を加えた演出も良かったです。脚本しばりがあるのかもしれませんが、後日談は要らなかったのではないでしょうか。アンネがある種、一人一人の人生を語るべき膨大な殺戮の犠牲者のシンボルとして、聖化されるような終り方には若干違和感がありました。

    以下、賞に関係なく感じたことを書かせて頂きます。作品は順不同です。

    ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』
    俳優が照明と音響を兼ねる、しかも3人芝居で。既成の演劇の常識を覆すようないわば「発明」のような劇でした。今年札幌に来たマームとジプシーや、札幌公演を行うことになった開幕ペナントレースの作劇を思い出して観ました。劇場に入った時のインパクトから痺れました。日常劇でありながらどこか非日常に旋回する物語、リフレインされるシークエンス。巧みな時制の立て付け。物語もチャーミングだったのですが人物の状況がとても面白かったです。ドローンなど機材トラブルもあったようですが、「芝居ってこういうもんだよね」と普段僕が思っているものを、すべてそぎ落として、最小限にしても、なお劇とはライブであることの醍醐味を改めて示してくれました。野外でも、ライブハウスでもやるというお話にも驚嘆しました。「もう一回観たい!今度は野外で、雨でも観るぞ!」、演劇の新しい可能性さえ見せてくれました。そんな劇に久々に出会った思いでした。

    MAM『父と暮らせば』、『月ノツカイ』
    MAMは2作品エントリーしましたが、どちらも作品力の高いものでした。ちなみに、『父と暮らせば』は札幌キャストの回でした。2004年に、宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信で映画化された時は観ました。「ピカ(原爆)」から自分だけが生き残ってしまったという自責の念に苦しみ、その原因のひとつでもある見捨ててしまった父親への深い思慕が生み出した幻影との2人芝居。間合いを十分にとったストロークの長い芝居と、感情を互いにぶつけ合う芝居のコントラストが味わい深かったです。長台詞を吐き切る力量と芝居の時間軸の中で感情をコントロールした髙橋海妃は実に熱演、俳優賞受賞に相応しい存在感でした。特に、かすかに見えた自らの再生する魂に、大きく手を伸ばすエンディングが一際印象的でした。途中で父親は生きてはおらず幻影であるという、タイトルの意味が分かる仕掛けにはなっているのですが、不在感がもう少し感じられればなお良かったかもしれません。増澤ノゾムは、高い演出力で井上ひさしの原作の味わいを十分に引き出し、札幌の役者2人で、父娘の何とも言えない情愛を通して戦争の惨さを伝えることに成功していたと思います。東京キャストも観たかったです。『月ノツカイ』も力作でしたが、主人公夫婦の設定がご都合に感じられました。そこだけ観れば昼メロのように感じて、「そっちに持って行くのか」と若干引きました。時制のセットバックと伏線の回収は、少し強引だったように思います。ですが、炭鉱事故注水のシーンの大芝居場はさすが。やたら書類に印鑑をもらいに来るヨコちんこと、本間健太の芝居が劇的に回収されぐっときました。しっかり北海道の歴史を描いた力作だったと思います。屈折感と疎外感を放出させていた主人公の遠藤洋平は好演でした。

    木製ボイジャー14号『ホテル』
    まもなく還暦のおじさんも魅惑してくれるパンキッシュな物語。余計な枝葉がいっぱいついているのですが、それも魅力でしょう。最後は、贋魔法使いと革命家もどきとシステムの反対側の世界の片隅で愛を探す少年が、3年前のいわくつきの火災で燃え落ちたホテルの天辺に上り詰める。去年のTGRで新人賞をとった作・演出の前田透の伸び盛りを楽しめました。リズム感のある台詞も買いでした。

    proto Paspoor『ある映画の話』
    多分、フランソワ・トリュフォーの「ある映画の物語」を下敷きにした物語、あるいはオマージュだろうと思うのですが、クラアク芸術堂を主宰する小佐部明広の溢れる才気を感じさせる劇でした。演劇人が映画的なつくりに挑戦するときに必ずしでかしてしまう失敗(劇の暗転の必然性と、フィルムでいうシークエンスのつながりは一緒ではない)をしているのですが、それをカバーしてあまりある作品でした。物語が暴力性を帯びながら、主題が高いところへ押し上げられて行く様には唸ってしまいました。小佐部ワールド全開。札幌演劇界というものがあるのであれば、その才能を評価されながらなぜか辺縁で孤独に自己革新に挑む姿勢も買いたいと思います。

    俳優賞について。札幌ハムプロジェクトの『Dr.サタン、まちがってサンタをつくる』で、すがの公はさすがな存在感を見せました。ですが、作・演出・出演の作品なので、対象にしませんでした。これまでに書いていない役者で言えば、優秀賞を受賞したトランク機械シアター『ねじまきロボットα〜ともだちのこえ〜』の原田充子、大賞作の『白浪っ!』では、客演の深浦佑太の人物の立ち方が凛としていましたし、月光グリーンのテツヤのタッパ、異様なメヂカラ。大したものです。イレブンナイン presentsミャゴラ『やんなるくらい自己嫌悪』(作:納谷真大、演出:明逸人)では、チンピラやくざを演じた大作開、ヴィンセント藤田ら若手の成長ぶりも好感しました。作品世界について。入賞はなりませんでしたが、マイペース『ばかもののすべて』は、状況の描き方がとても面白かったです。以前の作品も観ていますが、作・演出の八十嶋悠介はしっかり人物を書ける作家だと思って注目しています。劇団コヨーテ『路上ヨリ愛ヲ込メテ』。作・演出・出演の亀井健の作風は札幌演劇界隈では特異と思いますが、亀井の紡ぐ孤独な愛に喘ぐテキストの美しさ。改めて才能だと思いました。

    最後に、エントリー作ではないのですが、招聘された韓国の劇団竹竹(チュクチュク)の極めて優れた独創性と革新性で解釈しつつ、原作の主題を見事に引き出したシェークスピア劇『マクベス』。もう圧巻。なぎ倒されました。こういう芝居を札幌で観る機会があることも、TGRの良さだと思います。

    まったく再現性のない演劇の醍醐味、魅力。来年も素晴らしい作品、表現、表現者たちに出会えることを楽しみにしています!

    トメ

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  • TGR札幌劇場祭2017 講評②

    約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
    今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
    講評2回目は審査員の中脇 まりやさんです

    【プロフィール】
    札幌生まれ、札幌育ち。
    一般社団法人AISプランニングスタッフとしてコミュニティ&レンタルスペース「オノベカ」の運営や企画を担当している。
    小学生の頃以来見ていなかった演劇を見るようになったのはここ2,3年。

    【講 評】
    札幌劇場祭TGR2017にご参加の皆様、運営の皆様、一ヶ月間大変お疲れ様でした。
    濃密な一ヶ月を今年も過ごさせていただきました。ありがとうございました。
    今年から審査及び発表方法が変わるなどして、個人的に作品について述べる場はなかったので、こちらで“本当に”個人的な感想等を書かせて頂こうと思います。
    以下、観劇順です。

    〇札幌オーギリング 「ラストアンサー」
    名前は知っていたものの、審査員にならなければ行かなかったであろうオーギリング。
    単純に大喜利×レスリングという構図が面白く、チームや個人ごとに投げられる紙テープや様々なグッズ展開など、コツコツ回数を重ねてこそなのだろうな、と思いました。
    きっと来れば来るほど楽しいステージだったのではないかと思います。とはいっても初心者でも十分に楽しめました。
    思い入れの強さもよく分かったのですが、締めが湿っぽすぎて個人的についていけなくなりました。

    〇座・れら「アンネの日記」
    子どもの頃から「アンネ」の名前は知っていながらも、恥ずかしながら、実際に著書や物語には触れる機会はなく、過ごしてきました。
    わたしが15歳のとき、アンネと同じ境遇にあったら、一体わたしはアンネのようにできたでしょうか。今の歳でさえ、あらゆるものから身を隠し、朝から夜まで身動きがとれないなんて、気が狂いそうになるに決まっています。遠い国の、遠い昔に実際にあった出来事が、こんなにも間近に感じられたのは何とも言い難い出来事でした。上演時間の長さは気になったものの、アンネの生涯を知ることができてよかったです。アンネが恋をし、大人の女性になっていく様が心に残りました。わたしの中での女優賞は、アンネ役を演じた早弓結菜さんでした。

    〇シアターZOO企画「ぐりぐりグリム」
    音楽の親しみやすさや、舞台装置の面白さ(伸縮可能な家!やポッキーのおうち)がありました。シーンの繰り返しのある部分は、次はどんな展開になるんだろう?とワクワクしました。子どもにはまだ少し早いシュールさ、みたいなものも感じられました。カエルの声が鳴り響くエンディングはちょっと怖かったです。

    〇うわの空・藤志郎一座「面白半分」
    今年で2度目の観劇になりました。「村木さんのセンスの塊」の舞台に、なんのネタが出てくるかな、と思うのでした。さすがに劇団員の方の返しはお見事ですね。頭の回転の速さを感じました。

    〇トランク機械シアター「ねじまきロボットα~ともだちのこえ」
    立川さん自ら人形を持ち、会場外で呼びかけをしたり、生の子どもの反応をうまく生かしたり、ホスピタリーの高さをとても感じます。役者の皆さん自身が楽しまれていることが感じられます。今回、アルファとパピポの声域、というか声音が同じように感じられて、聞いていてちょっとつらい部分がありましたが、子ども向けの作品であるのに多様性や共生といったテーマは、今の世相を反映しているようでした。共生を願ったのに、新たな排除が生まれてしまう(スーツ大臣をはねのけてしまう)。でもそのことに対して、アルファの「友達になれなかった」というフォロー、更には「今日はだめでも明日は大丈夫かもしれない」という願望が今回のグッとポイントでした。
    また、別の視点ですが、こぐま座があって、シアターZOOがあって、キタラがあって。成長段階によって、観劇体験を子どものころから積める中島公園周辺のポテンシャルを感じました。

    〇MAM「月ノツカイ」
    こんなに観劇中に泣いたことはない!というくらい泣きました。わたしの母方の祖父は夕張の炭鉱夫でした。途中でやめて札幌に出てきたようでした。当時のことを、映画が安く見れたとか、銭湯に安く入れたとか、よく呑んだとか、そういう話は聞くものの、仕事の話はさほど聞くことがありませんでした。祖父が背負っていたものを垣間見たような気がして、今はもう聞けないことを悔やみ、もっと理解したかった、と思ったのでした。暗闇のなか、いくつかのライトが光り、仲間を探すシーンが一番胸に詰まりました。静かに判を押す由里子の姿も心に迫りました。もう一度見たいです。わたしの中での男優賞は、遠藤洋平さんでした。

    〇マイペース「ばかもののすべて」
    一緒に暮らしてたのに、父親が相撲すきだったこと知らないの!?という動揺から始まってしまいましたが、三人兄弟それぞれのキャラが面白く、音楽センスのない兄のスピッツのくだりがすきでした。

    〇ELEVEN NINES presents ミャゴラ「やんなるくらい自己嫌悪」
    とにかく万屋の坂口紅羽さんとコールガールの菊池颯平さんが秀逸でした。TGR授賞式後の交流会で菊池さんとお話させていただいていのですが、コールガールだと気づいていませんでした。「声がかれてて…」とお話されていて、(はて、どの役だっただろうか)と思っていたのですが、わかって納得!この場を借りて謝ります、すみませんでした!!

    〇words of hearts「アドルフの主治医」
    諸事情により、途中からの観劇になってしまいました。
    前年の「ニュートンの触媒」に続き、世界の伝記ものシリーズは企画として興味深いと思います。妻の身体まで利用しようとしたことにはぞっとしましたが、もっと非道な実験を沢山された方だったのですね。飛世さん、美しかったです!

    〇MAM「父と暮らせば」
    東京キャストで拝見しました。「アンネの日記」のように、歴史を知る足掛かりとなりました。初めて「父と暮らせば」を観たのですが、途中まで父が幽霊であることに気付けませんでした。でもやはり、涙を流さずには観られない作品でした。前に座っている方がおそらくよくお話を知っている方で、割と食い気味に泣かれていて、そっちの方が気になってしまったのでした。観劇ってこういうこと、あるよなあ、と思ったりしていました。観劇後、宮沢りえ主演の映画「父と暮らせば」を観たり、今まで何度も何度もいろいろな方によって上演されている作品だと知りました。これからもいろんなキャストや演出で見続けたい演目になりました。

    〇NIN企画「けんず きみが傍にいた時代」
    演劇っていくつかジャンルがあるように思うのですが、新しいジャンルを知った気分でした。特に「靴」は無言劇でありながら、切々と語りかけてくるようでした。表現方法もシンプルでありながら、目からうろこでした。全編とおして、あまり今まで出会うことのできなかった、ノスタルジックで温かみのある作品でした。

    〇ニッポンの河川「大地をつかむ両足と物語」
    「やられたー!!!!!」と思った舞台でした。照明も音響もすべて自分たちで、というのはそういうことだったのですね。最初、電気がつかないハプニングに「まだ始まってませんからね!!」と言われても、(本当はもう始まっているんじゃないか)と疑っていました。音響がカセットテープなのも、わたしは気に入ってしまって、あのアナログの音はふつうの舞台では聞けない。そしてカセットを引き抜き、床を滑らせる音!セリフのテンポは大変そうだなと思いましたが、表現方法の特殊さに、次は何が、次は何が、と楽しみました。他のお話も見たいし、何より野外で見てみたい劇団でした。アフタートークでは公開ダメ出し。こんな微妙なニュアンスの違いで舞台はどんどん変わっていくのか、と驚きました。どんな舞台も終わりがなさそう…。

    〇木製ボイジャー14号「ホテル」
    何のお話だったのか、理解することはできなかったのですが、熱量だけはすごくて、置いてけぼりにされて、頭の上をスコーーーーンと劇が、通り過ぎてしまった印象でした。随所随所にintro?とか寺山修司?とか思った場面があって、これからの創作がどうなっていくのか気になります。

    〇コヨーテ「路上ヨリ愛ヲ込メテ」
    ボイジャーやproto Paspoorもそうかな、と今回見ていて思っていたのですが、頭の中の表出みたいな舞台だと思いました。ちょっと抽象的で、つかみにくい、作者の世界観で魅せるタイプの。シリアスだと見せかけて、愛嬌とユーモアがあって、それでいてちょっと気持ち悪い(わたしの中での褒め言葉です!)。劇名しかり、亀井さんの言葉がすてきだなとわたしは思っています。

    〇ハムプロジェクト「象に釘」
    夏に「地獄変」を見て、きれいだった小田川さんが見たくて初日を観ました。テンポはよくはなかったですが、脚本がとってもすきだと思いました。望む「終わり」に辿り着けなくて、知っているような知らないようなひとと(象と?)何度も何度も出会って、ルールを作って、失敗して、またやり直す。ちょっと世にも奇妙な物語みたいでもある。最初から最後まで割と淡々としていて、静かな劇ですが、わたしはすきでした。同時期にカフカの「変身」やトゥーサンの「浴室」を読んでいたので、やや奇妙な物語に親近感がありました。「象に釘」を見て、実は初めて脚本を買いました。また観たいです。

    〇ハムプロジェクト「Dr.サタン、まちがってサンタをつくる」
    たこやきに悪魔ごはん、ニヤニヤせずにはいられませんでした。ちょっと気の抜けた感じのすがのさんと天野さんの様子も面白くて、ところどころで笑わせて頂きました。

    〇弦巻楽団「リチャード三世」
    わたしにはシェイクスピアはいつも難しくて(本筋はすごくシンプルなお話なのではないかと思うのですが)、外国の人名というところだけで躓いてしまいます。もう、全然ついていけない、と冒頭で思ったので、ぼんやりと見ることにしていました。劇を評価するというよりも、この企画を評価すべきだ、と途中で思いました。昔のひとが作り出した作品の、これだけ膨大なセリフを頭に、身体に叩き込んで、稽古を繰り返し、実際にお客さんの前で演じる、ということが、演劇を学ぶ方にとって、ものすごくよい体験で、力になっていくのではないかと思います。

    〇yhs「白波っ!」
    思い返す度に、華のある舞台だったと思います。舞台の使い方も面白く(奥行というよりも上下に使っていた印象)、笑いのネタも随所にちりばめられていました。昔の作品からのネタもあったのだと思いますが、それを知らないひとでも楽しめるやさしさがありました。江戸言葉も聞いていてどんどん馴染んでいくのを感じました。アルトさんの赤ちゃん役が面白く、出番が楽しみでした。エレキさんも本当に素敵な役者さんだなあと思いながら観劇していました。再演楽しみにしています!

    〇proto Paspoor「ある映画の話」
    小佐部さんの作品はまだ3作品しか見たことがないのですが、こういう光の似合う作品がすきだなと思いました。誰の話か、あなたか、わたしか、わからなくなる。でも暴力的な感情に共感できないのでした。

    ※ルート1「ずっとあなたを見守って…」は諸事情により観劇することができませんでした。

    TGR審査員としてのこの期間は、観劇者としての目を養わせていただいているような気分で、よい勉強になっています。
    また来年、どんな劇に出会えるか、楽しみにしています。
    お疲れ様でした。ありがとうございました!

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