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TGR札幌劇場際 NEWS


TGR札幌劇場祭2017 講評⑤

約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
講評5回目は新人賞審査員の桑田 信治さんです

【プロフィール】
初めて札幌演劇に触れたのは10数年前。その後、雑誌編集の仕事を通じて札幌の若手演劇人と交流を持つようになり、毎週末の小劇場通いが始まる。ジャンルや規模の大小を問わず、年間観劇本数は100本前後。仕事柄、作品の中身だけではなく情宣のデザインやライティング(文章)などにも拘りはあるが、客席では単純に泣いたり笑ったり。演劇は客席の自分と舞台との「個人的な出逢い」であり、いつまでも「ただの観客のひとり」として札幌演劇を観ていたいと思っています。

【講 評】
まずは参加されたすべての団体の皆さんに感謝を。今年も素敵な作品をありがとうございました。
TGR新人賞の審査委員長を拝命して3年目になりますが、今年はまた、それぞれにベクトルのまったく違う5作品が並んだなあというのが感想です。どの作品を推しても、その理由には共感できるものはあるのですが、他を圧するまでの決め手には欠け、審査会ではかなり話し合うこととなりました。

TGR新人賞には原則として「該当者なし」はありません。賞は審査委員とではなく、あくまでもカンパニー同士で競っているからです。受賞した劇団plus+さんには、これを励みにさらに上を目指してもらいたいと思います。
以前から何度も述べていますが、TGRに参加するカンパニーさんは皆それぞれのスタンスを持っており、それはそれでいいのだと思っています。
ただし賞に、しかも限られた期間しかチャレンジできない新人賞にエントリーするなら、野心をもってTGRに照準を合わせてきて欲しいなあというのが僕の本音です。特に、卒業公演や合同祭といった前提条件に縛られないカンパニーさんは、1年に一度しかない機会に自分たちをどう「演出」するかを、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

TGRには今年から、かねてから僕も待望していた「俳優賞」が設けられました。この賞は、新人賞・大賞どちらのエントリー作品からも垣根なく選ばれるものです。今後はこちらとのW受賞にも期待しています。

■演劇ユニットサクラナイフ『消火器アリスと狂姫鏖祭(きょうきおうさい)-ALICE in Bloody hell FEST★-』
作家の頭の中にある世界観を、会場のエントランスも含めて表現し、観客を「物語」へ誘(いざな)おうという意図はとても伝わってきました。入り口をくぐった観客は不思議な世界に迷い込み、終演後にまた日常に戻っていく──パトスは、今回の作品にとてもマッチした会場でもありました。
エントリーシートには「中だるみしない疾走感のある作風」とありましたが、序盤から1時間近くは物語がほとんど動かず、延々と世界観の語りに費やしたのはもったいないというか、見切りの付け方を考えた方がいいかなと感じました。8人の「自分」を登場させながらその出自を明らかにするのが遅かったし駆け足すぎた。もう少し展開を有効に使い、それぞれの「アリス」に見せ場を作ることができたのではないかと。
作家独自の作風、というのは尊重したいですが、舞台演劇として観客がどう受け取るか。世界観を(チェシャ猫の)独り語りで押し続ければ観客が受け止めてくれるというわけではない。「ライトノベル寄りの脚本」だと自認しているとしても、ライトノベルにあっても世界観は作品として総合的に伝えていくものだと思います。作品の客観的なバランスをとるために、観客の目に物語がどう見えるのかを今一度意識してみるのもよいかも知れません。

個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
世界観★★☆ 作者の意図する世界観を基軸に物語を立ち上げようという意図はとても伝わってきた。
展開★☆ 序盤での停滞が残念。8人のアリスはもっと使えたはず。
エンターテインメント性★☆ エンターテインメントとは何なのか。演出家として、上演台本をもっと客観視してほしい。役者はまだまだ応えてくれるはず。

■さっぽろ学生演劇祭『ブルー!ロマンス・ブルー!』
「ギリシア神話を持ってくるという発想がよかった」という声が審査委員から上がっていました。合同祭(さっぽろ学生演劇祭)には新人賞エントリー以前に「学生演劇を色々な人に知ってもらう」「皆で結束して舞台を創っていく」等の目的があるのだと思いますが、10年という節目を越えた今年の合同祭は、役者・スタッフともに、総合的に舞台を作り上げていくという姿勢、きちんと観客を意識した作品づくりが今まで以上に感じられました。
大所帯となる合同祭では、多くのキャストをどのように動かすのかが演出(と脚本)の悩みどころだと思います。その意味では、ギリシアの神々というのは素敵なアイディアだったかな。ギリシア神に和歌を詠ませてしまうというミスマッチの妙も、大人のカタい頭には想いが及ばないところですね。
ただし、何組かの恋愛模様が交差する中で、観客(や、もちろん作り手の)目線では軸となるはずの、等身大の人間の男女二人の結末が消化不良になってしまったのが残念だったかな。あの男の子はどうして神でもあったのか、イマイチ分かりにくかった。
前述したような理由で群像劇になりがちな合同祭ですが、過去には一人二人を主役にした作品もあったはず。群像劇がNGという訳では全然ないのですが、そこは脚本のウデの見せ所と考えて欲しいですね。
今年は1・2年生が多い舞台だったそうですが、合同祭を経ての、それぞれの今後の発展にも期待しています。

個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
演出★★ 男女の絡みの距離が近くエモーショナル。女性の演出だからこそ出来たのかな。
興行性★★☆ 視覚的なパンフレットの工夫、舞台美術、スタッフも含めた合同祭の総合力を感じた。
物語★☆ 結局、人間の「彼」と神との関連がいまひとつよく分からなかった。結構大事な部分だと思うんですが。

■きっとろんどん『ミーアキャットピープル』
旗揚げから1年半足らず。本公演もまだ3回目ながら集客力の高い評判のカンパニー。敢えて言いますが、個人的にも新人賞候補としてかなり期待を持っていました。
レギュラーに近い客演陣も含め、あて書きに応える役者力と、それを引き出す作家の力。掛け合いではなく個々のセリフのニュアンスコントロールだけで笑わされてしまう展開にも、役者と作家、そして演出の力量を感じます。問題は、今作の題材でした。
昨年の講評で僕は「もう、好きなように作って、見せてくれればいいというような感覚になってきている」と書きましたが、ここでは敢えて反対のことを言います。きっとろんどんなら新人賞を「狙って穫る」力があったのではないか。そのためには、特定の観客(今回のモチーフとなった遊び満載のギャング映画を知っている観客)以外には通じにくい今作は、TGRじゃなくて次の公演じゃダメだったのかなあ。
これは「審査員好みの作品でエントリーした方がいいよ」という意味ではありません。演劇には賛否両論がつきもので、万人が褒める作品なんて気持ち悪い、というのが僕の持論です。しかし今回は賛否以前に、前提から疎外されてしまった観客が少なからずいたようです。終演後の客席の戸惑いからもそれは感じられました。
作・演出の井上さんは、「あの映画」の特異な魅力を今作で再現したかったのだと思いますが、これはきっとろんどんにしてもハードルの高いチャレンジだったと思います。多くのシーンや構成、場面の見せ方へのこだわりなど、映画へのリスペクトがそこここに感じられ、役者力の高さとともにひと幕ひと幕の完成度は高かったのですが、作品として観客を巻き込むに至っていたかどうか。
拳銃やマシンガンであっけなく登場人物が死んでいく。アメリカのギャング映画ならアリかと思いますが、日本を舞台にすると結構殺伐としてしまいましたね。審査委員からは「まんま外国を舞台にすればよかったのでないか」「映画の展開をもっとダウンサイジングするという方法もあったのではないか」という意見もありました。
TGRとは別個の話ですが、前回公演ではSF映画やアニメをモチーフにしながらもオリジナル作品としてとても見応えのある昇華をしたきっとろんどんさんですから。来年のエントリーに、また期待しています。

個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
演出★★☆ 映画へのリスペクト。シーンの再現力。演技演出
キャスト★★★ 見応えのある役者力
脚本★★ 映画をまんま飲み込むのは難しい
※おまけ…泉さんの拳銃の構え方と反動の逃がし方★★★

■総合学園ヒューマンアカデミー札幌校パフォーミングアーツカレッッジ『ロミオとジュリエット』
昨年に引き続きいてのシェイクスピア作品ですが、「卒業公演」として、ふだん演劇になじみが少ない客層にも親しみやすい演目選びがまず成功。きちんと役を咀嚼して舞台に立っている役者が多く、主役陣以外にも光る演技が少なからずありました。また、歌に対する審査委員の評価も高く、新人賞に挙げる声もありました。
僕の観た千秋楽のロミオAがとても素晴らしかったのですが、初日はアガリまくっていたと(失礼)あとで他の審査委員に聞きました。審査委員によって褒めるキャストが違ったのは、Wキャストだからというだけでなく、短い公演期間内に舞台の上で進化していったゆえだと思います。卒公であるからには卒業生全員が舞台に立たなければならない。先生方の苦労も偲ばれますが、今年は堂々の新人賞エントリー作品でした。
悲劇的な幕切れのあとのカーテンコール。華やかな楽しいダンスは、「お芝居」のフィナーレかそれとももうひとつのハッピーエンドか。シェイクスピアの時代の観客の目にはどう映ったのだろうか、とその時代に想いを馳せさせてもらえるほどに、「身内の公演」としてではなく、作品として楽しめる域にあったと思います。

個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
キャスト★★☆ 配役に応える力と意欲。
演目・演出★★★ 卒業公演としても成功だし、一般のお客さんにももっと観てもらいたかった。
意義★★★ 若い世代が古典に触れる機会は貴重。そしてそれを成果に結びつけた努力も評価。

■劇団plus+『姉妹(ワタシタチ)、一肌脱ぎますッ!』
3年連続のエントリー。この作品だけで評価するのはもちろんですが、一昨年、昨年と観てきた僕としては、作劇も所属役者の力も確実に伸びているという手応えを感じました。
始まった途端に物語の結末もそして更にラストのオチも見えてしまったのですが(笑、主役姉妹にからむ2人の男性(客演)に「?」を増やして観客の興味を先に向ける工夫も感じられました。
ただし個人的にはエントリーシートの「初コメディ脚本」という言葉が気になりました。何をもって「コメディ」と定義しているのかな。「お笑い」くらいの意味なのだろうか、と。
例えば部屋内の会話が家の外の警官に筒抜けだったり、家に勝手に他人が上がり込んでくるユルさをもってコメディと定義するのものではないと思います。シリアスな展開の部分との「世界観のお約束」のギャップに個人的にはかなり違和感を感じました。
そのお笑いの部分にはもっとテンポが欲しかった。これは昨年も言及した部分ですが、演出をもっと重視してほしいと思います。
今後もこのカンパニーを続けていくなら、劇団plus+さんはまずもっと動員に力を入れてほしい。今回は人気劇団の新作公演と期間が重なったせいもあったとは思いますが。賞賛も批判も、まずはたくさんの観客に観てもらうことから始まるのですから。

個人的絶対評価(3段階評価 ☆は0.5)
キャスト★★☆ 姉妹二人が幕開けからのびのびと光る。市場さん(客演)の支える笑いは貴重。
物語性★★ 芝居としての完成度は公演を重ねるごとに増している。脚本の意気込みも感じられた。
客演★★ 好き嫌いは分かれるだろうが梶原さんはかなりのインパクト。市場さん霜田さんのキャラかぶりは気になった。

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