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TGR札幌劇場際 NEWS


TGR札幌劇場祭2017 講評③

約1ヶ月間に渡って開催されたTGR札幌劇場祭2017。
今年も、エントリー作品と向き合っていただいた審査員の皆様に心より感謝を申し上げます!
講評3回目は審査員の四宮 康雅さんです

【プロフィール】
HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。91年に日本テレビから転職。ニュース編集長、大型ドキュメンタリーの制作など一貫して現場に携わり、99年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多い。ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞では、国際テレビ芸術アカデミーから招聘を受けドラマ部門(TV Movie/Mini Series部門)の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛する走るハルキスト。イタリア語個人レッスン中。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫)。一般社団法人 放送人の会会員。

【TGR札幌劇場祭2017 講評にかえて】
今年のTGR札幌劇場祭、表現者の皆さん、舞台制作に関わったスタッフの皆さん、各劇場の皆さん、そしてロングランでの劇場祭運営にあたった劇場連絡会の皆さん、本当にお疲れさまでした。今年は去年までの授賞式の在り方を踏まえて、劇場連絡会と大賞審査員が対話を重ねて、新しい審査会の在り方、また授賞式の在り方を模索し、結果、大きく変えることになりました。演劇人の皆さんにはそれぞれの感想があると思います。後日、反省会も開催されますので、来年以降もより良いTGRの方向性を見出して行ければと思います。大賞エントリー作全作品の講評は、梅津委員長が総括されますので、個人的に感じたことを書かせて頂きます。個人的都合でエントリー作のうち、札幌オーギリング『休止興行「ラストアンサー」』、札幌ハムプロジェクト『ハム・コレ2017二本立て』のうち『象と釘』を観ることができませんでした。また、事前審査会に選評と各賞の推薦は書かせて頂きましたが、帰省していたため参加することができませんでした。予めお断りしておきます。
今年のTGRでは、個人的なことかもしれませんが、劇の作品力や作家性のオリジナリティ、独創性、革新性に加えて、札幌の演劇人、あるいは劇場人たちを応援したいという視点で観ようと努力しました。昨年よりレベルが上がってロングランの観劇も乗り越えられました。エントリーされている作品のクオリティは時としてため息をつきたくなるものもありました。しかし、映像に携わってきたものとして、舞台表現はもっとも自由度が高いと思っていますので、多様性のある作品を推したいと思いました。「もう一観たい!」。平田オリザさんの言葉だそうですが、最後はその視点で選ばせて頂きました。僕は舞台表現、特に演劇には特別なリスペクトがあります。舞台人やそれを支えている制作や縁の下の力持ちの皆さん、そして社会財でもある劇場の運営に日々努力されている劇場人の皆さんを少しでも、審査員という立場で応援したい。そう思っています。多様な視点で選ぶことができ、賞の重みはもちろんのことですが、表現者たちの励みになるような、新しいTGR初年に相応しい結果になっていれば、2年目の大賞審査員として望外の喜びです。

【大賞・俳優賞受賞】
yhs『白浪っ!』
冒頭から「きたーっ」と身を乗り出しました。お話をぎゅっと訳するとミッションインポッシブルを歌舞伎でやりたかったのね、と最後の見得を切るところまでイマジナリーラインでぼんやりと見えたのですが、観客を楽しませてくれる奇想天外な発想に加えて、ビットコインやLINEという現代性も自然に劇作に組み込み、達者な俳優たちが見事に「かぶいて」魅せてくれました。劇団創立20周年のおめでたい節目で大賞を狙うに相応しい実にあっぱれな作品でした。作品力はもちろんですが、シンプルながら舞台美術の造作と見立てが本当に素晴しく、人物もよく彫られていていましたし、劇全体のタブローも美しくアクションにマッチングしていました。オリジナルの音楽も格好良かったですね。作・演出の南参は、かなり悩んだと思うのですが、自分の持ち札をすべてさらしてストレート勝負に出たことが良かったと思います。物語を紡ぐ劇作家としての豊かな想像力とそれを舞台に乗せられる極めて高い演出力を評価したいと思います。初めての俳優賞を受賞したyhsのプレーヤー、櫻井保一は、振れ幅の大きな持ち味と、役者としての引き出しの多さで以前から注目していたのですが、持てる身体性をいかんなく発揮して、主役の重責を見事に果たしました。yhsとして世代交代という意味合いも感じられ、櫻井の『白浪っ!』だったと思います。

【優秀賞】
トランク機械シアター『ねじまきロボットα~ともだちのこえ~』
札幌の子ども文化の豊かさを支えるインフラである「こぐま座」をホームとするトランク機械シアターの子ども目線ながら、大人の心も動かす確かな脚本と劇世界は今年も魅力的でした。人形劇というジャンルを超える表現の豊かさ、子どもたちにも大人にも深く感じさせる、善と悪の単純な対立ではない、悪者をやっつけてハッピーエンディングにしない作劇の奥深さは、今日的な社会メッセージを持っていたと思います。作・演出を手掛ける立川佳吾の作家として感受性の豊かさと本づくりの丁寧さは特筆すべきものがあると思います。審査員賞に、やまびこ座で上演されたNIN企画『「けんず」きみが傍にいた時代』の中から、冒頭で上演された「靴」が選ばれました。これもシンプルな素材と演出で家族の成長や戦争の惨禍まで想像させる小作品でした。日本に誇る札幌市の2大児童劇場から受賞作が出たことはとても意義深いものがあると思います。

【優秀賞】
座・れら『アンネの日記』
誰でもそのタイトルは知っていて、なんとなくこういう物語だよねとは思っているけれど、実際は読んだことは少ないのではないでしょうか。話はそれますが、30年近く前、いわゆるベルリンの壁が壊れた後に、取材でポーランドへ行った折り、かつてのアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所(博物館)を訪れたことがあります。人類の本質は暴力性だということを思い知って背筋が凍り思わず泣いてしまったことを観劇後に思い出しました。アンネの日記は、学校の指定図書で読んだことがあるはずですが、思い出せません。舞台の外ではユダヤ人だけではなく、障がい者やLGBTに至るまで狂った民族浄化が起こっていたはずで、そんな絶望の瀬戸際の隠れ家生活の中にあっても無邪気に恋にときめくアンネやアンネを取り巻く人物たちがとても丁寧に演出され、小休憩を挟んで長丁場なのですが、最後まで連れて行ってくれました。特に第一幕最後の、ハヌカ祭のシーンのディテールと第二幕の物語の暗転の落差は一気に魅せました。深く傷ついたテロルと不寛容、分断の今日。『アンネの日記』が、ある種のもの言わぬプロテストとして上演されたことにも意味があったと思いますし、劇団の、そして演出の鈴木喜三夫の真摯な向き合いも評価したいと思います。個人的には大きな芝居は好きではないのですが、感銘を受けました。アンネ役の早弓結菜のフレッシュな素材感、ペーター役の信山E紘希の人物の立ち方が印象的でした。アンネの日記の外側に現在の劇構造を加えた演出も良かったです。脚本しばりがあるのかもしれませんが、後日談は要らなかったのではないでしょうか。アンネがある種、一人一人の人生を語るべき膨大な殺戮の犠牲者のシンボルとして、聖化されるような終り方には若干違和感がありました。

以下、賞に関係なく感じたことを書かせて頂きます。作品は順不同です。

ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』
俳優が照明と音響を兼ねる、しかも3人芝居で。既成の演劇の常識を覆すようないわば「発明」のような劇でした。今年札幌に来たマームとジプシーや、札幌公演を行うことになった開幕ペナントレースの作劇を思い出して観ました。劇場に入った時のインパクトから痺れました。日常劇でありながらどこか非日常に旋回する物語、リフレインされるシークエンス。巧みな時制の立て付け。物語もチャーミングだったのですが人物の状況がとても面白かったです。ドローンなど機材トラブルもあったようですが、「芝居ってこういうもんだよね」と普段僕が思っているものを、すべてそぎ落として、最小限にしても、なお劇とはライブであることの醍醐味を改めて示してくれました。野外でも、ライブハウスでもやるというお話にも驚嘆しました。「もう一回観たい!今度は野外で、雨でも観るぞ!」、演劇の新しい可能性さえ見せてくれました。そんな劇に久々に出会った思いでした。

MAM『父と暮らせば』、『月ノツカイ』
MAMは2作品エントリーしましたが、どちらも作品力の高いものでした。ちなみに、『父と暮らせば』は札幌キャストの回でした。2004年に、宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信で映画化された時は観ました。「ピカ(原爆)」から自分だけが生き残ってしまったという自責の念に苦しみ、その原因のひとつでもある見捨ててしまった父親への深い思慕が生み出した幻影との2人芝居。間合いを十分にとったストロークの長い芝居と、感情を互いにぶつけ合う芝居のコントラストが味わい深かったです。長台詞を吐き切る力量と芝居の時間軸の中で感情をコントロールした髙橋海妃は実に熱演、俳優賞受賞に相応しい存在感でした。特に、かすかに見えた自らの再生する魂に、大きく手を伸ばすエンディングが一際印象的でした。途中で父親は生きてはおらず幻影であるという、タイトルの意味が分かる仕掛けにはなっているのですが、不在感がもう少し感じられればなお良かったかもしれません。増澤ノゾムは、高い演出力で井上ひさしの原作の味わいを十分に引き出し、札幌の役者2人で、父娘の何とも言えない情愛を通して戦争の惨さを伝えることに成功していたと思います。東京キャストも観たかったです。『月ノツカイ』も力作でしたが、主人公夫婦の設定がご都合に感じられました。そこだけ観れば昼メロのように感じて、「そっちに持って行くのか」と若干引きました。時制のセットバックと伏線の回収は、少し強引だったように思います。ですが、炭鉱事故注水のシーンの大芝居場はさすが。やたら書類に印鑑をもらいに来るヨコちんこと、本間健太の芝居が劇的に回収されぐっときました。しっかり北海道の歴史を描いた力作だったと思います。屈折感と疎外感を放出させていた主人公の遠藤洋平は好演でした。

木製ボイジャー14号『ホテル』
まもなく還暦のおじさんも魅惑してくれるパンキッシュな物語。余計な枝葉がいっぱいついているのですが、それも魅力でしょう。最後は、贋魔法使いと革命家もどきとシステムの反対側の世界の片隅で愛を探す少年が、3年前のいわくつきの火災で燃え落ちたホテルの天辺に上り詰める。去年のTGRで新人賞をとった作・演出の前田透の伸び盛りを楽しめました。リズム感のある台詞も買いでした。

proto Paspoor『ある映画の話』
多分、フランソワ・トリュフォーの「ある映画の物語」を下敷きにした物語、あるいはオマージュだろうと思うのですが、クラアク芸術堂を主宰する小佐部明広の溢れる才気を感じさせる劇でした。演劇人が映画的なつくりに挑戦するときに必ずしでかしてしまう失敗(劇の暗転の必然性と、フィルムでいうシークエンスのつながりは一緒ではない)をしているのですが、それをカバーしてあまりある作品でした。物語が暴力性を帯びながら、主題が高いところへ押し上げられて行く様には唸ってしまいました。小佐部ワールド全開。札幌演劇界というものがあるのであれば、その才能を評価されながらなぜか辺縁で孤独に自己革新に挑む姿勢も買いたいと思います。

俳優賞について。札幌ハムプロジェクトの『Dr.サタン、まちがってサンタをつくる』で、すがの公はさすがな存在感を見せました。ですが、作・演出・出演の作品なので、対象にしませんでした。これまでに書いていない役者で言えば、優秀賞を受賞したトランク機械シアター『ねじまきロボットα〜ともだちのこえ〜』の原田充子、大賞作の『白浪っ!』では、客演の深浦佑太の人物の立ち方が凛としていましたし、月光グリーンのテツヤのタッパ、異様なメヂカラ。大したものです。イレブンナイン presentsミャゴラ『やんなるくらい自己嫌悪』(作:納谷真大、演出:明逸人)では、チンピラやくざを演じた大作開、ヴィンセント藤田ら若手の成長ぶりも好感しました。作品世界について。入賞はなりませんでしたが、マイペース『ばかもののすべて』は、状況の描き方がとても面白かったです。以前の作品も観ていますが、作・演出の八十嶋悠介はしっかり人物を書ける作家だと思って注目しています。劇団コヨーテ『路上ヨリ愛ヲ込メテ』。作・演出・出演の亀井健の作風は札幌演劇界隈では特異と思いますが、亀井の紡ぐ孤独な愛に喘ぐテキストの美しさ。改めて才能だと思いました。

最後に、エントリー作ではないのですが、招聘された韓国の劇団竹竹(チュクチュク)の極めて優れた独創性と革新性で解釈しつつ、原作の主題を見事に引き出したシェークスピア劇『マクベス』。もう圧巻。なぎ倒されました。こういう芝居を札幌で観る機会があることも、TGRの良さだと思います。

まったく再現性のない演劇の醍醐味、魅力。来年も素晴らしい作品、表現、表現者たちに出会えることを楽しみにしています!

トメ

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