SAPPORO ART STAGE 2016



TGR札幌劇場際 NEWS


TGR札幌劇場祭2016 講評⑩

TGR札幌劇場祭2016、講評10回目は審査委員長を務めていただいた岩崎真紀さんです。
岩﨑さんも審査員3年目のため今年で卒業。おつかれさまでした!
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【プロフィール】
 広報誌・情報誌などの制作に携わるフリーランスのライター・編集者。ジャンルは問わないが特に農業分野に強い。2006年以降、北海道文化財団主催の演出家養成講座・脚本家養成講座などの業務に関わる。また、来道した演出家・脚本家のインタビュー記事を作成。『ホッカイドウマガジン KAI』でコラム「客席の迷想録〜北海道ステージウオッチング」を連載中。北海道農業ジャーナリストの会所属、絵本・児童文学研究センター正会員。

【講 評】
■大賞候補5作品と審査員賞作品について
 2016年に大賞候補となった5作品は、それぞれに力ある素敵な作品ではありましたが、私という観客にとっては「完全に別の世界に連れて行ってくれる」「見終わった後に長く残るものがある」という点で不足を感じる作品でもありました。そのため、最終投票では大いに悩んだ末に、「もう一度観たいと思うかどうか」という基準で票を投じました。

●青年団リンク ホエイ『珈琲法要』
 全体の構成と「珈琲」の登場の仕方に納得のいかないものを感じましたが、北海道の歴史の悲劇という題材や津軽弁の味わい、圧倒的な演技力などに惹きつけられ、再演による作品の完成を観たいと強く感じた作品でした。詳しくは北海道マガジン「カイ」のコラム『客席の迷想録』をお読みください。
http://kai-hokkaido.com/stage008/

●コンカリーニョプロデュース『ちゃっかり八兵衛』
 定評あるコメディを明快かつ遊び心満載に演出、コンカリーニョ10周年企画としての劇場全体の盛り上がりも素晴らしい作品でした。「もう一度観たい」という点では、観た時間の楽しさですっきりと満足するものがあり、『珈琲法要』に及ばないところがありました。私が演劇の一番の楽しみだと考えている「余白を想像する楽しみ」がないタイプの作品だったからかもしれません。

●劇団カチノル『お伽の棺』
 戯曲・演出・演技の完成度において、2016年参加作品の中で最も優れていたように思います。しかし私個人としては、「寒村から攫われて娼家で働かされた女」の表現に違和感がありました。加えて「正直であるという口裏合わせで支配者を欺き生き延びる集団」ということを衝撃として表現したラストは、「現代の札幌で生きる私とのリンク」がいささか弱く、また高い完成度ゆえに、変化を観たいという気持ちも薄かったように思います。

●劇団アトリエ『蓑虫の動悸』
 若者の対人関係の悩みと孤独のストーリーを身体の動きで表現した作品で、水を張った舞台と照明を効果的に用い、美しく演出されていました。蓑虫の生態への仮託もよい発想と感じました。しかし、身体表現は言語からの置き換えで抽象的というよりは説明的、かつ先の展開がある程度読めたため、上演時間が非常に長く感じられました。男女関係の表現には繰り返しが多く、短く整理すると完成度が高くなるように思いました。

●劇団Words of heart『ニュートンの触媒』
 ナイロン発明者という知られざる偉人に光を当てた作品で、派手さはありませんが人間の物語を真面目に描こうとする姿勢があり、札幌発のオリジナル戯曲作品の可能性を感じさせてくれました。物語は「かけがえのない、最も憎むべき〜」と言う友人の回想の形をとっていましたが、最も大事なその回想の動機(愛憎)が弱かった点が惜しまれます。また、交友関係や天才の狂気の表現にも改善すべきと思う点がありましたが、再演による完成を見たいと感じる作品でもありました。

●新芸能集団乱拍子 『いっすんさきは夢』
「いくつもの闇が通りすぎその度に光が来た」を導入に、狂言的に回すフレームの中で見せる聞かせる太鼓を披露、祝祭感が「夢のいま」と「明日には夢が」を感じさせる素敵な構成でした。主力メンバーが要所を決めることで、多様な演者が参加してなお魅力的な舞台として成立していると感じました。

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■大賞候補として検討した作品

●トランク機械シアター『ねじまきロボットアルファー〜わすれんぼう のつぎはぎ〜』
 子ども向け作品としては例年通り高い完成度でしたが、間合いの速さや要素の多さ(詰め込み)が気になりました。また、脚本も昨年作品のほうが心に響いたように思います。

●ELEVEN NINES presentsギャルソンモンケ『乙女の祈り』
 名作脚本の設定・構成を活かしつつ独自の笑いを演出した作品で、ギャグアクションのキレも含め楽しく観劇しました。笑わせながらも共感させる「男への愛」の表現と、ラストで「乙女の祈り」に落ちる演出があれば、心に残る作品になったと思います。

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■TGR全体について

 今年は地元札幌勢から、劇団アトリエと劇団Words of heartの2団体が、初めて大賞候補入りしました。これから札幌の演劇シーンの牽引役へと成長してくれることを楽しみにしています。

 賞選考の結果としては、札幌演劇の現在の牽引役であるはずの中堅層が力を示せなかった年でした。初日の時点では「まるで芝居になっていない」と評価された作品、目を引く演出ながら役者の身体・パフォーマンスが緩んでいた作品もあります。初心に返って、真摯に戯曲を読み込み、身体をつくり、また良い舞台を創ってみせてほしいと思います。

 長く札幌演劇を見続けている方々からは、「札幌演劇のレベルは着実に上がっている」という声が聞かれました。私自身も、特に既存の戯曲を用いたものでは、札幌で活動する演出家・俳優によって完成度の高い、安心して観ることができる作品が作られていると感じます。

 一方で、オリジナル戯曲の弱さが目につきました。戯曲を書く方は、ノウハウ本を読んだり、名作戯曲を数多く読んで設計を研究したり、自作について多くの人の意見を聞いてみるなど、今一度、基本的な部分からの勉強が必要であるように思います。

 私は2014年から三年間、審査員としてTGRを楽しませてもらいました。引き受けるときには、任期の長さと観劇本数の多さを負担に思いましたが、終えてみれば、一年目には一年目の新鮮な視点、二年目には二年目の視野の広がりがあり、三年目には札幌演劇全体の様相や個々の劇団・集団の挑戦・成長を感じることができました。三年の任期と観劇本数の多さは、審査システムとして意義のあるものだったと感じています。
 札幌劇場祭のますますの隆盛と、札幌から世界に羽ばたく作品の誕生を、心より願っております。

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