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TGR 審査員の講評 【3】/岩﨑真紀さん

審査員の講評第3弾は、
審査員1年目のフリーライター・岩﨑真紀さんです。

下記のいただいた原稿の中にもありますが、
岩﨑さんは、ご自身がライターとして参加している
ホッカイドウマガジン「カイ」のスタッフブログに個別の作品考察を載せています。
こちらもぜひ、あわせてお読みいただければと思います。

(以下、いただいた原稿です)

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2014年のTGRは、道外作品が上位を占める結果となった。札幌の演劇関係者には悔しい限り、来年は大賞奪還のためにさらに練り込んだ作品を持ってくるだろうし、「我こそは」という劇団が参加することも考えられる。今から観劇が楽しみだ。
個別の作品考察についてはホッカイドウマガジンカイのスタッフブログ上の記事http://www.kai-hokkaido.com/blog/?p=9988をお読みいただくとして、ここでは大賞・新人賞選考を中心に思うところを述べる。

プロジェクトアイランド『アイランドー監獄島』は、重要な場面の演出に物足りなさを感じたものの、脚本のテーマの普遍性と圧倒的な演技力において、他の追随を許さないものがあった。大賞の受賞には納得する思いがある。

時間堂『衝突と分裂、あるいは融合』については、私はこの作品を支持しなかった。
1) 作品で説明されるエネルギーと原発を巡る諸事情は、私には既知のものだった
2)私は「食糧危機と遺伝子組み換えと自然農法」等々の農業分野の問題について、ライターとして劇作家が本作に掛けたのと同種の熱意で向き合ってきた。作品で示された「社会には多様な立場とそれぞれの正義があり、選択の過ちは未来でしかわからない」「人はその混沌の中で煩悶しつつ生きねばならない」という苦しみとも長馴染みであり、「そうであったとしても、生きていく支えになるものを示すことに意義がある」と考えるところにやっとたどり着いた人間なので、作品のラストが物足りなかった
上記理由より、物語としての面白さや劇的さへの配慮はそれほど重視していない本作を、私はあまり楽しめなかった。しかし、そのような人間はごく少数だろう。
現代日本が抱える問題の要点を捉えて答えのない混沌を脚本化し、創意工夫に富んだ演出で舞台化したのは見事だった。ゼロからこのような作品を生み出すことには社会的意義があり、次点での特別賞受賞は妥当と思う。

劇団千年王國 千年王國プロデュース『TOP GIRLS』は、海外脚本を丁寧に読み解いて、過不足のない演出で舞台化した。私は特に「過」のない点を高く評価した。
札幌で創造される名作脚本の舞台は、読解やテンションの不足したもの、でなければ「過」のあるものが多いと感じている。「過」とは、本来は不必要な「場面の面白さ」やダンス・歌・音楽などによる観客サービス、わかりやすさを重視しすぎて結末まで変える、というものだ。このような「過」は、演出家が役者の演技力を疑っているか、観客の無言という緊張感に耐えられないか、観客の読解をそもそも信用していないためだと思う。観客の読解が信用ならないというのは、往々にしてその通りだろう。しかし、だからといって「過」に走ってばかりでは、勝負を投げているようでいただけない。
『TOP GIRLS』は、役者の力を信じた演出家が真っ向勝負に出て、伝えるべきものをきちんと整理・修正してリアルを立ち上げることに成功している。主要な女優陣の力量も素晴らしく、ラストまでテンションを維持した。しかし作品のテーマであるジェンダーの問題は、性別・年齢・職業、結婚・出産経験その他によって見解が大きく異なってくる。それを越えて幅広い層の共感を獲得するには少しばかりの不足があったようだ。上位を道外の二作品に譲ったのはやむを得ない。
一方で、私は名作脚本をこのような誠実な演出と高い演技力で舞台化したものが、札幌演劇の周縁にいるファン予備軍の期待しているものだろうと考える。札幌には「札幌座」があるが、新しい観客を呼び込むには新しいカラーが必要だ。また、作り手がこのような演劇創造を通して学ぶことが、「新作脚本による新しい演劇の創造」を底支えするとも思う。札幌の劇団が定期的に本作のような挑戦をすることを歓迎する気持ちがあるため、私は『TOP GIRLS』が他の札幌作品を抑え、演出賞という形で特別賞を受賞したことに満足している。

弦巻楽団『ナイトスイミング』については、この作品で弦巻楽団が大賞を受賞することを良しとしない思いがあった。劇作の弦巻啓太は構成力に信頼のできる、札幌では秀でた書き手だと私は思っている。しかし『ナイト~』については観劇中から、弦巻作品にしては「手慣れた手法に新しい素材を入れて手早く仕上げた」または「素材に夢中になるあまりに設定がちょっとおろそかになった」というような荒さがある気がしてならなかった。この劇作家なら、同じ素材でもっと小気味の良い脚本が書けるはずだ。それは私を含め、より多くの人の胸に響いただろう。
とはいえ『ナイト~』は演出の工夫も役者の熱量も素晴らしく、娯楽作品としての完成度は高かった。観客がオーディエンス賞という形でこの作品に栄誉を与えたことを嬉しく思う。

劇団coyote『愛の顛末』は非常にパンチのある個性的な作品で、優等生的な作品にはないアングラ風の魅力があった。落語のサゲのように「愛の顛末」に落ち着く構成が面白い。しかし雑多な盛り込みが特徴の作品とはいえ、大賞とするにはそぎ落としたほうがいいものがあると感じる。今回の作品を上回る、強烈かつ洗練された次回作を期待する。

また、大賞ノミネートとはならなかったが、有力な候補の一つであった作品にintro『薄暮-hakubo-』がある。札幌で創られたものとしては希少な抽象性の高い作品であり、詩的なセリフや印象的な美しいシーンで独特の世界を創り出していた。抽象作品に対してコメントするのは難しいのだが、しいていえば有効射程の問題であったように思う。もっと深く、あるいはもっと広く響かせるための「何か」が必要だったのかもしれない。

新人賞については、他の審査員からは「今年は不作」との声もあったが、私は受賞作であるRED KING CRAB『おだぶつ』を強く推した。未熟な点は多々あったが、「犬」を使った構成は、新人賞対象から数年を経過した劇団の作品にも勝るものを感じた。テーマに対して真摯に向き合った姿勢も好印象だった。

さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座「座・競演vol.5」には、その企画に対して審査員奨励賞が贈られた。今回の上演企画では、伝統芸能の分野で道外に学びながら競い合って成長し、その一角を担おうという意気込みが感じられた。また、若手を披露し経験を積ませるという意図も良かった。
小粒な作品が多かった今年のTGR前半において、ひときわ強い輝きを放った存在だった。型や様式の持つ美しさと説得力は、自意識が氾濫する作品の鑑賞に疲れていた私をリフレッシュさせてくれた。受け継がれてきた「劇的なもの」の強さを再発見する機会ともなった。

個人的に残念に思うのは、現代的な人形劇に大人の心を揺さぶるような作品がなかったことだ。公立としては初の人形劇専門劇場を設立し、数々の優れた人材を輩出してきた札幌。劇場祭の大賞候補に人形劇作品の名が出ないのは淋しい。来年は「札幌に人形劇あり!」と知らしめるような作品が登場することを期待している。

その他、印象に残っていることとして、演劇専用小劇場BLOCKの一連の企画がある。非常によく若手劇団のケアをしていることが感じられた。

TGR全体としては「不用意な映像の使用」が印象に残った。映像には目を引きつける強い力があり、役者よりもそちらに注意が向く。役者の身体で存在しないものをイメージさせようとしているときに、イメージそのものである映像が登場してくると、私の脳は自分でイメージを創ることを停止しがちだった。私は演劇では想像することを楽しみたい。映像を使用する際にはその効果をよく考えて使ってほしい。

また、今回のTGRの観劇で、脚本そのものに劇的な仕掛けがある作品は「何が足りなくとも、ひとまず面白い」と実感した。目新しい演出に頼る作品は、既視感を持った時点でつまらなくなる。
私は劇的な仕掛けのある脚本が好きだし、劇的効果を高めるための脚本家・演出家らの創意工夫と生身の役者の「芸」を観るのが好きだ。彼らにしてやられるために劇場に行くのだ。劇的なものがないなら、何を見せるかについて演出家が自覚的であるものを観たい。来年はぐうの音も出ないほどに私を叩きのめす作品が続出してくれたら、これほど嬉しいことはない。

今年初めて審査員を務めたため、1カ月という長丁場の観劇は、終わりのない一人旅のように感じられて辛いものがあった。しかし事前審査の場での他の審査員の方々との討論は非常に楽しく、様々な視点があることや、参照すべき作品について教わる有意義な場でもあった。このような機会を与えてくれた札幌劇場連絡会の方々、他の審査員の方々に感謝申し上げたい。
また、TGRで上演されたような、多種多様な舞台作品の創造を日々支えている劇場関係者の皆さんの努力に対し、それを享受する側である札幌市民の一人として、心からの敬意と感謝を捧げたい。

何かを審査するという経験は初めてであり、至らない点、言葉の過ぎた点などがあると思う。誠心誠意務めたことに免じてお許しいただきたい。また、演劇には半可通な観客であり、考察・発言には勘違いなどもあったと思う。お気づきの方にはぜひご助言いただければと願っている。
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(以上です)

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