TGR2010大賞 審査委員総評[早川渉さん]

審査委員総評[その2]

連載2回目は、札幌在住の映画監督・早川渉さん。
早川さんは97年から初の16ミリ長編映画「7/25【nana-ni-go】」を監督、
99年にはカンヌ映画祭国際批評家週間に正式出品され高い評価を受けるなど、
ほかにも多くの国際映画祭でグランプリなどを受賞しています。
TGRの審査委員は今年で2年目となります。
大作ですが一気にご紹介!

●審査委員・早川渉さん(映画監督)の総評

(以下、早川さんの原稿)

TGR2010 観劇記録 早川渉

今年で2年目の審査員です。
今年は、エントリー作品30作中、29作品を観劇しました。観る事が出来なかったのは、劇団北芸の
「この道はいつか来た道」です。また、いつの日か出会えることを祈っています。
映画監督として、映画や映像表現では到底無理な、演劇空間ならではの表現に注目して観ました。
文章量に多少の差はありますが、見た順で、すべての作品にコメントを寄せたいと思います。

1、「トラックとらすけ」人形劇団ばおばぶ

人形劇「トラックとらすけ」、パネルシアター「おおきなかぶ」、人形劇「はらぺこあおむし」の3本。2歳半の娘と一緒に見ました。娘は初めてのお芝居体験で、最後まで飽きずに辛抱できるかとても不安でしたが大丈夫でした。ばおばぶさんありがとうございます。
今回の公演を見て感じたこと。
子どもはストーリーに引きつけられるのではなく、音やセリフの言い方、形の面白さや変化といった目で見て引きつけられるもの、耳で聞いて引きつけられるものに反応するのだなぁ・・ということ。そういう面で見ると「トラックとらすけ」はストーリーが強すぎてというか台詞劇すぎてちょっと残念な感じがしました。パネルシアターは意外に楽しめました。ライブの良さというか、観客を巻き込み舞台と一体感が出る仕掛けが良くできていたと思います。最後の「はらぺこあおむし」は元々超有名な絵本で、私も娘もよく知っている話。とても楽しめました。こういう知っている人が多い原作では演出が試されるところですが、今回は台詞のない音楽劇にしたのが成功だったと思います。
絵本の世界では表現しきれない、かといってリアルではあり得ないおあむしの成長の過程を大きさで表現できたのがとてもイイと思いました。

2、「小麦色のレガート」E.C.デルタ

デルタの芝居は昨年に引き続き2回目。今回は昨年の「GREEN GREEN」の続編というか姉妹編といった内容。昨年も感じたことだがデルタの役者陣はとても魅力的です。今回のだいだい役を演じた高田麻衣をはじめヘリョン役の天神ともみやDJコンビの秋葉峰之、名取絢子など個性的でエネルギッシュな演技は見ていて楽しい。が、ここから先が問題。今回の芝居は視覚的な見せ場が少ない「台詞劇」・・個人的にはエンターテイメントを標榜するデルタなのだからもっとライブの舞台として見て楽しい、聞いてわくわくするような仕掛けを期待していました。もちろん台詞劇だからエンターテイメントにならないわけではなく演出の持って行きようで観客にエンターテイメントを感じさせることが出来るはずですよね。
私は退屈でした。エンターテイメントを感じることが出来ませんでした。役者の魅力に頼ってしまった演出上の怠慢に見えました。(昨年も感じましたが)登場人物の誰にも感情移入出来ませんでした。それなりにエキセントリック(目の不自由な少女、韓国人留学生)な役柄設定や今時(リストラ、コミュニケーション不全の若者)のテーマを盛り込んではいるもののいずれも上っ面の表現にしか見えず、ズキッと心に刺さるシーンも台詞もありませんでした。きっと他の舞台ではもっとエンターテイメントしているものと思いますが、芝居は出会った時がすべて。今回の作品は残念でした。

3、「ミズにアブラ ヌカにクギ」劇団イナダ組

タイトルが良くないですね(笑)でも、芝居はなかなか面白かったです。
ほぼ円形に組んだステージを観客がぐるっと取り囲む形の舞台。
四辺に二台ずつ計8台のパソコンが置かれたテーブル。最初はネットカフェの設定なのかな?
と思いましたが、実際は掲示板にアクセスする不特定多数の書き込みする人間たち。
秋葉の事件から触発されてこの芝居は出来たのでしょう。
「僕たちには立ち向かう術が見つからない」・・でしたっけ。
これは、今を生きるティーンの若者の気持ちを代弁したものなのでしょうか?
いやいや、これは愚問でした。
40を超えたもうおじさんの領域を迎えたイナダ氏が臆面もなくティーンの気持ちを代弁するはずがないではないですか。これは、今を生きる40代のイナダ氏の叫びだと私は感じました。
「私たちには立ち向かう術が見つからない。あるとすればそれは表現する事だけだ。ただただ表現する事だけだ。」
役者の演技も美術や音響、そして演出の細部まで、ちゃんとした芝居を見せてもらえた事に感謝します。さすがです。だからこそ、その先が見たかったです。立ち向かう術が見つからなかったその先に何があるかを。

4、「乱歩のはなし工場1」劇団 深想逢嘘<ウタタネ>

脚本が残念です。
ファンタジーとしての要素がふんだんとある魅力的な題材だと思うのですが、お話を無理に複雑にしすぎたのではないでしょうか。今回はゲネを見させてもらったので、様々な部分で完成度は低かったと思われますが、そのような状況ではなおさら脚本の不備が目につきました。役者の芝居もみんなトーンが似ていて、最初はそれなりに見ていられるのですが、すぐに飽きてしまいました。
脚本、芝居、構成などなど、まだまだ改善の余地が激しくあります。城谷くん、もっと頑張ってください!!

5、「ファンク漂う〜君と僕の爆発だ〜」AND

狂気に彩られた様式美にあふれた舞台でした。審査員からのサプライズ賞が与えられましたが、自分としても刺激的な一本でした。
最初の15分位は全く乗れず苦痛でした。音楽が大きく役者の台詞が聞き取れない。いかにも「演劇」でございますといった役者の演技。・・・どうなることやら、と思っていたのだが、複雑に見えていた芝居の構造が時とともに明確になり大げさに見えていた役者の演技も、「愛と狂気」を描いているのだとわかってくることでまずまず納得がいくようになる。さらに、後半にいくに従って物語の線がぴたっと一本に収束していくように感じ、舞台に集中することができた。個人的に好きなタイプの世界観であることを差し引いても脚本と演出の力があることが十分感じられた。
役者では、斉藤役の赤谷翔次郎とおばあちゃん役のナガムツの存在感が目を引いた。
それ以外の役者(主役の亀井健はいいのだが)にさらなる狂気の芝居の存在感が見えてこれば、もっと分厚い舞台になったと思う。次回作にも期待!

6、「feel to」ろうあ劇団 舞夢

ろうあ劇団の舞台は初めて見ましたがなかなか面白かったです。
特にアクションとともに表情が豊かで「伝える」強さのようなものを感じました。
アパートの大家さんが最高でしたね。幽霊の彼女と二人で窓外を見ていたときの
シンクロの動きなんか、とても面白かったです。
芝居としては、もう少しテンポよく展開することができればもっと面白くなるのではないでしょうか。
一般のかたにもっともっと見てもらいたい芝居でした。

7、「ROMEO and TILET」開幕ペナントレース

オープニングの白いもじもじくん3体が出てきて最後トイレになるパフォーマンスが最高でした。
男臭い体臭ムンムンのナンセンスパフォーマンス。
しかし、これがすべて。他のパフォーマンスは基本のトーンが同じで、驚くような仕掛けやテクニックがある訳ではない。がんばってるなぁ〜と感心はするもののものすごく面白い訳ではない。
もう少し観客に近づくのか、もっと突き放すのか、まだまだ触れ幅が少ないような気がする。

8、「その島での生存方式」パムンサ

よくできた寓話劇という印象。
音の効果を日本の人形劇の黒子のような役割に振ったのが面白かった。
内容的には、日本人が見ても分かりやすい話だと思いましたが、もうひとつ国や言葉の壁を越えて伝わってくるものが無かったのも正直なところ。

9、「W」プラズマニア

脚本が穴だらけですわ。

まず、探偵・ミステリーものの最低限のマナーとして「W」という謎のワードに対する答えが全然出来ていないでしょう!
あとは・・なぜ関係ない人間をあれほどまでに殺す必要があるのか???
塚本は暗号を解きそうになったから仕方がないまでも、メイドの女の子を殺したのはなぜ?女刑事を殺したのはなぜ?心理学者を殺したのはなぜ?殺せば殺すほど自分に嫌疑がかかる訳で何のメリットもないと思うが???
そもそも、梶田も光香も殺したい相手は香月なのだからとっととやってしまえばいいものを・・・
そして、相変わらず、どかんとした音で目くらましをするのはどうかなと思います。役者のスキルをもっとあげていってほしいです。コレだけかむとちょっとしらけますよ。
はまったら、すごく面白いエンターテーメントを見せてくれそうな劇団だけに、ちょっと辛口になりました。

10、「アオゾラドリーマー」劇団パーソンズ

役者の熱のこもった芝居が印象に残る。各役者も意外とうまい。ただ、演技というか演出というか、とにかく単調で、ずっとオシオシすぎて飽きてしまった。まぁ、その押しが強いことがラストの感動につながったのかもしれないが。もう少し演技をすることの喜びよりも様々な手法で舞台を作り上げていく喜びを見せてほしい。題材や脚本作りも含めて次回作に期待します。

11、「とうちゃん死んだ、カラスがカー」さっぽろ学生演劇祭①

手堅いホームコメディという印象。役者もまずまずうまいし、演出も手堅い感じ。サンピアザでなければもっと観客も沸いたに違いない。長男の狂言まわしをはじめ、語り口はうまい。残念なのは、幽霊で登場した父のネタが実は・・・というオチ。そのまま幽霊でも良かったのにねぇ。

12、「やまびこ舞踏会」竹内実花+まっつ

審査員からのサプライズ賞が与えられました。納得です。というより、今回のこの作品はグランプリは無理でも、特別賞に値する内容のものだったと断言しておきます。秀逸な人魚姫でした。
この後の人生で、何かの機会で人魚姫という物語に出会うことがあれば、必ず今回の舞台のことを思い出すでしょう。それほどすばらしかったです。今回出会った29作品の中でも、印象度という点においてはナンバー1だと思います。
昨年も同じような演目を拝見しましたが、あまりピンと来ませんでした。竹内さんの舞踊は、彼女自身の圧倒的な存在感とも相まって、思わずハッとする場面が多々あるのですが、語り手のまっつさんとのマッチングが全然よくない・・・正直言って、お互いがお互いのよさを消し合っているような舞台だったと記憶しています。しかし、今回は違った!
まっつさんの読みがあまり前面に出てこずに、竹内さんが演じる人魚姫の存在感をしっかりと際立たせる、
繊細で力強いサポートに徹している印象がありました。見ている我々は竹内さんが演じる人魚姫の肉体的な運動とまっつさんの緩急自在のささやきにより、物語の世界に完全に没入することができたと思います。
僕が見たのは初日の方で、翌日は演目が変わり「美女と野獣」だったとか・・・こちらも見たい!!
再演を望みます!

13、「音楽になってくれないか」弦巻楽団

良かったです。特別賞<脚本賞>にふさわしい内容でした。
役者のみんなが良いです。我孫子さん最高です。主役もぴたりです。手紙が結局なんなのか不明ですがまぁ、気にならない範囲です。スクリーンの使い方や影の効果的な使い方、場面転換の巧みなやり方といいとても良く練られた完成度の高い芝居だと思います。「行き詰まった脚本家が苦し紛れに作ってしまった夢オチもの」であり「劇団を舞台設定に使ったバックステージもの」というまさしく自虐的なネタにも関わらず、嫌らしさがみじんも無く、清潔で好感の持てる舞台です。また、見てみたいです。

14、「ハイパー、リアル」さっぽろ学生演劇祭②

新人賞を受賞。おめでとうございます。
ただ、審査会の講評でも述べましたが、特に優れているからではなく、ほかに優れたものがなく、結果的に選ばれた新人賞だと思ってください。もちろん可能性を感じる舞台であり、ほかの対象劇団以上に良いところがたくさんある芝居でした。
この芝居も夢と現実の入れ子構造になっていますが、脚本がよくできているので現実に引き戻されること無く集中してみることができました。新人の舞台の中では、取り上げたテーマや決着のつけ方に一番好感が持てます。役者の芝居がちょっと完成度が低く残念ですが、作・演出のセンスの良さは光りました。

15、「イオランタ」札幌室内歌劇場

ゲネプロで拝見しましたので、軽めのコメントで。
主役が人形?役者?どちらなのでしょう??
おそらく両方が主役なんですよね。
であれば、バランスがとれていないと思われます。
このお芝居の内容、美術セットの完成度、人形のすばらしさ、歌手たちの力量、どれをとっても
抜群の面白くなる要素満載です。
自分が見たかったベストバランスは人形主役(8割)人間の役者と歌が脇を固める(2割)。
オペラ公演という前提がある以上なかなか難しいかもしれませんが、せっかく沢さんが演出を手がけるのなら、これくらい思い切った舞台が見たかったです。

16、「タシラギー再生」光州演劇協会

観客の巻き込み方が良いですよね。楽しくまたためになりました。
本来、葬儀というひたすら悲しいシーンに演じられる道化芝居的な伝統芸能でしょうか。土着の唄曲がしみました。観られた事はとても良かったと思いますが、感想としてはココまで。心にリアルに迫るものまでは感じることができませんでした。。

17、「シャッター街引導カレー」ディリバレー・ダイバーズ

脚本の穴が多すぎるか?というかやりたい事は物語ではなく、限りなくパフォーマンスやギャグなのでは?
であれば無理にストーリー仕立てにする必要はないのに・・・
他の審査員の方によると、以前はもっとショートねたのコントをテンポよく展開する舞台をやっていたとか・・現状では、そちらの方が観てみたいですねぇ。シナリオがどうこうというよりも、ステージ上のパフォーマンス力をもっと磨いていって欲しいと思います。そうすれば札幌でも異色の劇団になるのではないでしょうか?その可能性は感じられました。

18、「ミュージカルさようなら、スパッツツァカミーノ!」おびひろ市民ミュージカル

子供たちがかわいい。あと、オオカミ団のリーダー役がちょっと上手すぎて浮き気味だったのが良い意味でも悪い意味でも目立っていました。お話として、今観るとちょっと古いというか、伝わりにくい内容なのでもう少し短くするか、今風な脚色を施しても良かったのではないでしょうか。

19、「ここだけの話」LAUGH LAMP

悪くないんだけど・・・良くもない。
まずキャラ設定の追い込みが甘いか?
イマイチ好感というか共感をが持てない人物が多い。アキオや演劇の女の子・・・その辺がもう少し魅力的になると物語の厚みが増すのに。良い話のはずなのに今ひとつ読後感が悪いのは、主人公の造形が甘いせいでしょう。せっかくキューちゃんが主人公の陰的な役割を与えられているのだから、キューちゃんに主人公の内面なり、観客が主人公に感情移入できるようなエピソードなりを語らせるとか、工夫の仕方があるような気がします。あと、全体的な場面のテンポ感が悪い感じがする・・・特に前半がたるかった。

20、「ワタシの好きなぼうりょく」Paing Soe

塔のある街が舞台。
市長と市長の過去を暴こうとする女性ジャーナリスト、そのジャーナリストは言葉の不自由な男と交換日記をしている。ラブ人形と男。理想の夫婦に選ばれた夫婦と、DV状態にある夫婦・・・
様々なエピソードがシュルリアリスティックにつながり錯綜する魅力的な舞台と言えよう。
役者陣もなかなか魅力的。複雑な演出の上に複数の役柄を演じ分けねばならず戸惑うシーンやまだ芝居がこなれてない様子も見られたが、全体的にこの不条理劇にリアルな肉体生を持たせていたと思う。最終的にはもう少しまとまりなり、かちっと収束した終わりを観てみたかったが、歯ごたえのある川尻の脚本を演出の山田ががっちりと受け止めた力作だと思う。

21、「あらしのよるに〜ガブとメイの物語〜」ぐるーぷえるむの森

審査員からサプライズ賞が与えられました。おめでとうございます。
お母さん達の劇団で、完全なこども向けの舞台ですからあまり期待していなかったのですが、面白く観ることができました。さすがに15年も公演を続けているだけのことはあるなぁと思いました。
まずは、ガブとメイの二人の役者がとても良かったです。特にガブ役の榎本さんは、身体の自由が利かない中、座りの芝居が多かったり歩行器を使った演技があったりと不自由な状況にありましたが、全く違和感なく劇に集中できました。ガブになりきった、魂のこもったお芝居のせいだと思います。
気になった点もいくつか。
ちょっと長い気がする事と、セリフで説明し過ぎかな?という点。もう少し舞台ならではの演出の工夫、音響や照明の変化など緩急をつけていければ、もっと大人からこどもまで楽しめる舞台に仕上がっていくのではないでしょうか。

22、「空の記憶」座・れら

特別賞<作品賞>おめでとうございます。
記憶に残る舞台でした。
完全な一幕芝居で二人芝居。テーマは重い。アンネ・フランクと戦争の記憶・・・正直、観るには気が重い舞台でした(笑)。審査員でなかったら新さっぽろまで足を運んだかどうか・・・。
すべては杞憂に終わりました。すばらしい舞台でした。まずは二人の役者に拍手を。
澤口さんのオットー役は感動しました。声の抑揚の一つ一つ、その仕草の一つ一つ、すべてがぴたっと役に収まったカンジ・・。澤口さんの所作を観ているだけでも価値のある舞台だったと思います。
アンネ役の小沼さん。存在がいわゆる舞台女優さんといった雰囲気を持っていない印象を受けたのですが、それがかえって生身のアンネをリアルに感じさせる要因の一つになったのかもしれません。そして、声が印象的でした。押さえたときの暗く太い、憎悪を感じる声。忘れることができません。
最後に演出の面も。美術や小道具、衣装の選択がすばらしかったですし、音響の使い方がすてきでした。鳥のさえずりに代表される自然の音と、戦時中の音とのコントラストが抑制の利いたトーンで全編を覆っていました。演出家の力を感じた部分です。

23、「薄荷物語」町民舞台東藻琴

プロの演劇人ではなく素人の町民の皆さんが手作りで作る舞台ですから、例えば演技のクオリティの面から観たら、やはり落ちますし、演出の切れなんかもあまりなく、いわゆる昔のお芝居的な世界ではありました。
しかし!面白いんだなコレが。
久々にリアリティを感じる舞台を観た気がします。生でんぷん、でんぷん団子、カボチャ団子・・舞台で実際に食べ物を食べたり調理したりする芝居は結構あるのですが、今回の舞台に出てくる食べ物達は何か特別のリアリティをもって迫ってきた気がします。それ以外にも、列車が登場するシーンや偽の傷痍軍人のシーンなど、ちゃんとディテールにこだわった作り方をしている事にとても好感を持ちました。大きな事件が起こる訳ではないのに、一つ一つリアリティの積み重ねをしていく事で、すばらしい舞台は作ることができるのだなぁと、再認識させられた舞台でした。

24、「Low Low Low」江田‘J‘智行

うーん、面白くなかったですねぇ。多少知ったメンバーでもあるのでちょっと辛口になります。
お話が意外な方向に行ってしまいびっくりしました。あんなにダークな方向に行くとは・・・
これが良い意味での裏切りになってくれれば良かったのですが、結果的には最悪の方向へ。
ラストの意味、まだわかりません。

25、「クリスマス・キャロル」劇団TPS

本年度の大賞受賞。おめでとうございます。
昨年の千年王國「贋作者」ほどの圧倒的な完成度からはほど遠いまだまだ未完成の舞台ですが、そのスケールの大きさとこの先TPSの定番プログラムとして代々受け継がれていく事に期待したいと思います。
この舞台に関しては、ほかの審査員の方も多く語られるでしょうから、ボクからはシンプルに良かった点と悪かった点2点だけ述べてみたいと思います。
良かった点—この芝居の勝利は、徹底的に原作をみんなで読み込んで細部にこだわり、世界観を作り上げていった事につきるでしょう。映画作りでも同様の事が言えるのですが、「魂は細部に宿る」といいますか、観客に圧倒的なリアリティと感動を与えるのはストーリーのすばらしさではなく、実は一つ一つ手を抜かずに細部を積み重ねていく事ではないかと。この舞台を観て改めて思いました。
悪かった点—これは、良かった点と表裏一体の部分です。芝居の作り込みが原作に読み込みとディテールの正確な再現にシフトしていく事で、役柄一人一人の追い込みがまだまだ不十分な気がしました。セリフまわしにしてもまだ探っている最中というカンジがありあり・・この辺は、逆にこの先どうなっていくのか楽しみな部分でもあります。ただ、スクルージのキャラクターだけは今回の初演でもしっかりとしてほしかったと思います。ボクの観た回では、スクルージがとても小心な小悪党で、彼の過去を見ても彼の未来の姿をみても彼の生き様がぐっと見に迫ってこない。結果、精霊達の行為で彼が改心していくプロセスが、いわゆる勧善懲悪的な教訓話レベルのものにしかなっていない気がするわけです。ココがもったいないなぁと思いました。スクルージの描き方一つでこの芝居の印象が全く変わってくる気がするので、この先の進化をまた期待して待ちたいと思います。

26、「里神楽〜春風と花の寅〜」新芸能集団 乱拍子

この舞台も、今回のような審査員の機会を与えられない限り出会うことができなかったと思います。
本当に感謝です。
演目としては、まずグループの代表的演目である太鼓の演奏があり、その後で今回一番驚いた「里神楽」、そして会場の子ども達との交流をかねた昔遊びがあり、最後にまた太鼓の演奏。
今回一番驚いた「里神楽」ですが、これ自体は日本の伝統芸能ですから何となく耳には覚えて入るものの、実際に見るのは今回が初めて。本州ならともかく北海道でこういう伝統芸能がしっかりと息づいている事に驚くとともに、その完成度の高さとエンターテーメント性の高さにびっくりしました。
春、菜の花が咲き蝶々が舞ううららかな川辺で農婦たちがのんびりと洗濯をしているところに、虎の親子が水を飲みにくるんですね。そこからてんやわんやの捕物帳が始まるわけですが、セリフがいっさいなく神楽のお囃子をバックにカラフルな美術や衣装の虎や剣士達が会場の空間も縦横無尽に使って大立ち回りをするわけです。いやぁ、おもしろかった!もし見る機会があればぜひ見てください。

27、「わるい子」intro

何か、演劇のワークショップの作品を見ているような気がしました。
これは、もちろん良い意味ではなくどちらかと言えばわるい意味です。
観客席が舞台をぐるっと囲む円形の劇場空間で、コミュニケーション(つながる)ことをテーマに、様々な人物とエピソードがスピード感たっぷりでどんどん連鎖してはまたもとに戻っていく・・というカンジなのですが、構造、仕掛けばかりに目がいってしまい、そこを生きている登場人物の誰一人にもリアリティのあるイメージがわかず、そうなると構造に飽きてくるともうその先を見ていられなくなってしまいました。
ワークショップの作品みたいだと思ったのは、これが15分の作品なら面白く見れただろうと思えたからです。構造と仕掛け自体は面白いと思います。これに東藻琴の町民劇団やTPSの作品のような丁寧な細部の作り込み作業を施してもらえるとまた全然違う魅力あふれる舞台になるのではないでしょうか。何か、期待させる魅力がある劇団なのでまた次の公演を楽しみにしたいと思います。

28、「COSI FAN TUTTE 恋人たちの学校」札幌オペラスタジオ

他の公演と重なってしまったので1幕のみの観劇になってしまいました。フルステージを見ていないので論評は控えた方が良いと思いますが、1幕を見た中で感じた事をいくつか。
オペラを見る事自体がほとんどなく、オペラの面白さ自体が今ひとつわからないので、いつもそうですが今回もストーリーを追う事をやめ、歌や役者の衣装美術などを楽しむことにしました。そういう目で今回光っていたのはドン・アルフォンソ役の羽淵さん、小間使い役の坪田さん。お二人の歌声は聞きほれましたねぇ。
オペラ公演はどうしても敷居が高いのですが、年に一回くらいはこういう本格オペラを見に行くのも良いものです。

29、「ダニーと紺碧の海」劇団千年王國

昨年圧倒的な支持を集めて大賞を授賞した千年王國の新作。期待に違わぬ力作でした。
まず、個人的に坂本祐以という女優が昨年の「贋作者」のときからとても気になっていたので今回じっくりと見れた事がとてもうれしかった。
さすが千年王國。舞台はとても完成度が高く、空間の使い方、音楽、美術、照明、そういった基本的な見せ方はほとんど文句のつけようがない素晴らしい出来。他の審査員の方がおっしゃっていたように、パトスという劇場がこんなに変貌するのかと正直驚いた。
この芝居は、いろんな人と話しがしたくなる。おそらく男性の観客は坂本さんの演技が素晴らしいと言い、女性の観客は赤沼君が素敵だと言うのではないだろうか?実際、二人ともそのすごく高いレベルで素晴らしい演技をぶつけ合ってくれたと思う。
自分的には、1幕目の二人の暴力的なキャラクターが以降影を潜めて、最終的に妙に幸せなトーンで収まってしまった事に若干アレっ??て感じてしまった。
特に赤沼君演じるダニーがとても理性的なキャラクターに変貌していくさまにちょっと違和感があった。
あたたかな幸せの予感を感じさせつつも、ぬぐい去る事の出来ないもっとビターな不安感・・そんなものがもう少し感じることができたら、自分としては一生ものの舞台になったかもしれない。
いずれにせよ、舞台は生き物でこれから様々な変化と変貌を遂げていくもの。さらに研ぎすまされた「ダニーと紺碧の海」にまたいつか出会いたいものだと思う。

今年は、昨年に比べて見応えのある作品が多かったように思います。
その原因の一つは、皮肉な事かもしれませんが原作ものや既存の戯曲が多い(大賞候補作5作品中TPS、座・れら、千年王國、北芸、の4作が該当)という事にあるような気がします。
最初からある程度力のある原作なり戯曲がベースにある事は、大きなアドバンテージになる可能性が高い事が今回の審査結果を見ても明らかでしょう。若手の劇団は自分達のオリジナル脚本にこだわる事も大切ですが、力のある原作や戯曲と真っ向から勝負する事も良い挑戦になるのではないかと強く感じました。
舞台は、お話を語る事だけではなく舞台空間をどのように駆使して、観客にその場でなければ感じる事の出来ないライブ感を提供できるかが腕の見せ所。昨年の講評で、ボクは「脚本が弱い」というような事を書きましたが、その思いは今回も変わりません。素敵なオリジナル作品に出会える事も楽しみにしていますが、今回のTPSや千年王國の舞台のようなオリジナルと真っ向勝負しながら格闘し、作り込んでいく芝居を見るのも本当に楽しいものです。
来年も素敵な物語と素敵な舞台に出会える事を期待してます。